Et cetera   
Kitschy tales
 
 
 
 
*完結しない物語の破片や残骸*
 
 

風からの贈り物
 
 魔女見習い生と使い魔のウサギ。この一人と一匹を登場させたくて用意したプロットがたくさんあって、その内の一つ。出だしを10パターン近く書いてそれ以降は手付かずながら、歌詞として『幸せ、さがします』で形にしました。

 
序文
 
 時に、遥か古代より人々が培ってきた神秘主義の魔法文明と、異端呼ばわりの新人類の奇才たちが新たに創り出した機械文明とが見事に融合してしまった、平たく言えば時代の転換期。
 戦争という単語は過去の記憶の中に僅かに残っているだけ。庶民も、貴族も、王族も、みんな平和かつ幸せな生活を営んでいた。
 
 でも、その世界にはその世界なりに、いろんな問題を抱えている訳で  
 
 運命を司る女神様の気まぐれさに、下界に住まう人間はいつも振り回されて生きている。
 この物語は、そんなお話である。
 
 
プロローグ
 
  雪降りし季節 朝の月二十日
 
 
 今日は未来に私にとって、とっても大切な日になるはず。
 この日のために、こっそりと準備してた。食べ物とか、明かりとか、必要なものを。
 私は臆病だった。自分を信じきれなかった。でも、勇気を振り絞って。私なりに精一杯の抵抗をしよう。
 花咲きし季節、水流れし季節、風渡りし季節、一年巡って雪降りし季節。帰ってくるのいつになるかな。
 その時また書くから…待っててね、日記さん。
 
 
十歳を迎えた誕生日の夜に。
 
 
I <雪降りし季節 朝の月二十三日>
 
 清らかな群青色の大空の下、街の象徴である石作りの時計台の針は、二本とも天心を差している。いわゆるお昼時だ。
 待望のお客が店へ訪れたのは、そんな時間だった。
 
 店番を勤めるランは、カウンターを食卓にして昼食をとろうとしていた。
「さてと、いただきまーす」
 今日の献立は、チーズケーキが一切れと、贅沢して少々高価なのを買ったハーブティー。ほのかな柔らかい甘味と、高貴かつ芳潤な香り  食事というよりおやつに近いが。
 ランは魔法学院の卒業を間近に控えた十四歳。少々つり上がった紫の瞳に、薄紅色の唇。小さな顔の頬は若干桃色に染まっている。鮮やかな赤毛はお下げに結い、小柄な身に纏うは水色のワンピース。面持ちはまるでお人形さんのよう。
 
 コンコン。
 ふと、扉を叩く音。
 
「もしかして、お客様かな?」
 昼食は一時中断、手にしたティーカップを小皿に戻して、ランは自分の足元を覗き込んだ。
 冬場なので、冷える床にはビロードの絨毯が敷かれている。そこには一匹のウサギが座り込んでいた。
 
「ボクはきっと、家賃の集金だと思うよ」
 体に沿って寝かされた長い耳、ふわふわした純白の体、綿毛の丸い尻尾、光を受けて赤に輝くつぶらな瞳  どこをどう見ても、その外見はウサギ。けれど、シルフィと呼ばれた彼(?)は人語を喋った。
 シルフィは大きなあくびを一つしたかと思うと、絨毯の滑らかな毛並みの中に潜り込み、睡眠の態勢をする。
 
「つれないなぁ…ちょっとぐらい希望持ってもいいじゃない」
 あまりに素っ気ない返事に、ランは少し気落ち。
 どうかお客様でありますように…普段は信じてもいない神様に祈りつつ、鍵を開けるため椅子から腰を上げた。
 
 すると突然、
「あ、待って!」
 シルフィが跳ね起き、呼び止める。
「なに、いきなり…」
「ねえねえ、本当にボクの言った通りだったらどうするの?お金あるの?」
「!」
 聞いて、ランの表情が一瞬凍りついた。
 反応を見てシルフィ、わざわざ答えを待つ必要なしと察する。
 
「ないよね、やっぱり。仕送りなし、仕事なしじゃ」
「だけど…うーん」
 開けるべきか開けざるべきか、ランは真剣な面差しで悩む。ハイリスクは確実、しかしハイリターンとは限らないので、この賭けはやや分が悪い。
 
 シルフィは心配そうに、ランの顔を覗き込む。
「居留守しようよ。大家さんって怖い人だし…」
「そうね、決めたっと」
 ラン、両手を固く握って天を仰ぐ。
「うんうん、それが賢明だよ。ボクはランの頭脳役だからね」
 シルフィ、幾度と頷く。
「そうよ、この財政難を解決するためには、仕事のチャンスを逃しちゃいけない。家賃が怖くて何が魔女見習いよ!」
 ラン、扉に走り寄る。
「うんうん、ってあれれれ?ちょ、ちょ、ちょっと待った!」
 実のところ、会話は成立していなかった。シルフィの反論をよそに、ランはあっと言う間に扉を開ける。完全無視されたシルフィ、びっくり仰天。
 
 
 後々考えると、これが間違いの始まりだったのかもしれない。
 
 
(以降、未完成)
 
 
 
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