■セガサターンソフトレビュー(シミュレーション) |
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■パップ・ブリーダー |
・ジャンル:リアルタイムシミュレーション ・メーカー:サイ・メイト ・発売日:1996年11月1日 ・クリア状況:全エンディング(5人×2個) | ||
5人いるうら若き女神長候補の1人となり、フィールドに放たれた小動物型の天使=パップに命令を出して、ステージ毎に条件の達成を目指します。 パップに移動方向を指示し、従ってくれたら誉めて、反抗しやがったら叱る──本作のゲームデザインはシミュレーションとして成立するのか疑問な程にシンプルながら、猫の手も借りたい忙しさを突き付けることでバランスを取りました。しかし、パップは同時に5匹も宛がわれるのにAIがお莫迦を凌駕して脳みそ空っぽで、厳しい制限時間・だだっ広いフィールド・乱立した障害物のちょっかいまで受けつつ、付きっ切りの世話をしなきゃならないのが困りものです。現状を把握しにくい一覧性の悪さと、順送りしか出来ないユニット切り替えはとても不便で、プレイヤーの神経は常にぴりぴり。浮気者で忘れん坊でじゃじゃ馬なパップを叱咤激励し、少しずつ仲良くなってゆく喜びに繋げたかったであろう育成要素も、1プレイが40分で終了の短い所要時間と噛み合っていません。 全27面のステージは、「災害を食い止める」「自然を愛でる」「女神同士で殴り合う」等々とバラエティ豊かに思わせて、実際には「敵を倒す」か「チェックポイントを通過する」の使い回しがほとんど。バトンを持ってリレー対決とか、食材を集めて調理実習とか、地図を用いて宝探しとか、アイデアは色々と浮かぶはずですけど、プログラムが追い付かないのでしょうか。また、ステージは5段階の難易度で区別されているのに、最終成績を判定する事後評価の価値が共通なのは、易しい前半で「たいへんよくできました」を稼いだ時点でベストエンディングが確定してしまい、難しい後半への挑戦意欲を削ぎます。システムデータに非対応では自己記録の追求も楽しめませんし、もっと言えばクリアを左右するのはプレイヤーの向上心より、5種×4匹からパップを選択する時に割り振られるランダムなパラメーターの方が大きいような。 ギャルゲーチックな表面から期待が持てそうな演出面は、途中で力が尽きた様子。女神の言動が状況に応じて繰り出されるメイン画面は、和気あいあいな雰囲気で努力賞ものなのに、プロのレベルに達しているとはお世辞にも言えない人物絵と、CG1枚及び独り語り十数秒で幕を閉じるエンディングに、安っぽさが満開です。女神たちが人助けを競い合っている設定が蔑ろなのも勿体無く、ステージクリアで民から感謝の言葉を貰えるくらいのご褒美は用意すべきでしょう。 読み込みを含めてテンポは良好で、キーアサインは存分に練られ、重大なバグは認められず、内容だって詰まらない訳ではなく、根は悪くありません。新しい小さなメーカーの習作と受け取れば、あちらこちらの拙さが却って愛らしいと思えるかも。 |
■マリーのアトリエ Ver.1.3 〜ザールブルグの錬金術士〜 | ♪ | C |
・ジャンル:育成シミュレーション ・メーカー:イマジニア/ガスト ・発売日:1997年12月11日 ・クリア状況:全エンディング/全おまけ | ||
王立魔術学校の落ちこぼれ生徒なマリーが5年間、卒業試験の為に与えられたお店で様々なアイテムを作ります。内蔵時計の活用やエンディングの追加等、細かいパワーアップを伴ったプレイステーションからの移植とのこと。会社はRPGを名乗っていますが、原型は『プリンセスメーカー』なので上記区分としました。 依頼を受ける→材料の採取に冒険へ→アイテムを作成→報酬獲得を基本の流れに、合間の買い物・戦闘・レベルアップ・イベントがRPGの風味を加える反面、作品の根幹と思われた採取と作成はコマンドを決定即成果の簡単仕様で、意外にパッドを通じて介入出来る要素が多くありません。一部でミニゲームを成果への障害にしたのを踏まえ、もっと機会を増やすと同時に難度をマリーの能力に連動させ、ゲーム性を深めて欲しいですね。また、一度のプレイで全100種類のアイテムが揃う上にエンディングのバリエーションは非常に少なく、自由度と寿命が想像を遥かに下回ったり、素人が担当したかのようにパラメーターが概して大雑把だったり、街で交わせる会話が悲しい程に薄かったりで、手本にすべき『プリンセスメーカー』より全般が劣るのは、開発者の勉強不足かと。 更に評価を落とす要因が、抑揚頓挫の欠如した展開です。お楽しみのはずのイベントは内容と連続感が希薄だわ、歳月の移り変わりを感じさせる演出が皆無だわで、マリーのトホホな日常を面白可笑しく眺められるのは初起動の中盤まででした。もしや、卒業試験に5年と言う不自然に長い舞台設定は、バランス調整による後付けなのでしょうか。そして、失敗すれば物語が一切進行しなくなる超重要な連鎖イベントと、その解法に限ってゲーム内の常識から逸脱している意地悪さには閉口。諦めて攻略本を買ってくるまで、持病の悪化で倒れた親友の様子が全くフォローされない空虚な世界を抜け出せず、バグを疑ったのは私だけではありますまい。 憎まれ口を叩いてから手の平を返す格好ですが、購入前に勝手な期待を押し付けてしまった自覚もあり、創意に富む企画を第一作目から破綻無く纏めた秀作だと客観的には思いました。ずらりと並ぶアイテムを管理し易いリストに、イベントすら無視して瞬時に先まで飛ばせる日付に、必要十分なコンテンツが揃ったクリア後のおまけにと、ユーザーフレンドリー至上主義が窺える嬉しがらせの数々は、少々の苦言なんて呑み込ませる威力でしょう。あと、多曲数&フルボイスを高音質で出力しつつ、カートリッジと遜色の無いテンポを実現したのも、何かに付けて進行速度が鈍って当然な発売同時期の諸作の中では賞賛もの。演者と脚本が拙くても裏方がしっかりと土台を支えてくれれば、観客は不満を覚えずに済みますね。 最後に、背景やモンスターを含めて9割もの原画を描いたらしいキャラクターデザインの桜瀬琥姫と、耳に残って病み付きになる名台詞の「たーる(樽)」「いすっ(椅子)」「うにー!(海胆)」を生み出したマリー役声優の池澤春菜に、本作の最優秀スタッフ賞を。あまりに貢献度が高い為、この2人の起用を決めた時点で勝ちって感じです。 |
■ソロ・クライシス |
・ジャンル:戦術シミュレーション ・メーカー:セガ/クインテット ・発売日:1998年1月22日 ・クリア状況:エンディング/魔物語100%/全クリア(レッドステージ) | ||
神と悪魔がシモベたちを導き、様々な天変地異を起こし合って激戦を繰り広げる、ターン制のシミュレーション。表を隆起させれば裏が陥没する、表裏一体化した二元マップが特色です。 雨を窪地に降らせて敵を水没させる、太陽光で雪原を消して進軍を早める、地震で住居を壊滅させて天変地異用のポイントを削ぐ、隕石で真裏に直通のゲートを発生させて本拠地を強襲する等々、発想と実行の両輪で相手を追い詰めてゆく過程が、知的な喜びをもたらします。二元マップの導入による複雑さは、ゲームシステムをシンプルに纏めて緩和しており、プレイヤーの頭脳へ負担を掛けずに目新しい魅力を生み出しました。画面の視野が狭くて全体図もまるで役に立たず、面積と移動力のバランスが悪い上にデッドスペースが目立ち、駒同士の通り抜けが禁止だから渋滞しがちで、天変地異の応酬が基本なのに演出がスキップ不能と、マップ・移動関係・待ち時間への苦情は呑み込めませんが、反転と回転が即座に可能なクォータービューは地形の高低が判別し易く、操作性全般も良好なので許容範囲でしょう。 しかし、神と悪魔の「出来る行動」は同じでも「持つ道具」の差が中盤から際立ち、駒や地形で圧倒的優位なCPUにお莫迦な思考回路を付けて調整した難易度は、認めたくありません。ステージによって違った敵の戦略を読み取ってゆくパズルっぽさが骨子ながら、CPUが最善手を指したら即死の苦境が続く為、手加減によって生かされている感じを拭えないのが原因。普通の状況で何故か長考に沈むことも併せて、AIの完成度を高められなかった様子ですね。 難易度への不満を促進したのが、ユニットの成長要素。成長は3段階で、つまりは1段階分の強化が著しいばかりか個々の性能差が顕著にも拘らず、全16人が全13面で1面に1人を1段階しか成長させられません。おまけに、事前の比較は無理・成長後に面間セーブ・中断セーブは一つと言う面倒な仕様と、所定の手順でステージの最中に加入した者は2段階目から開始することを、説明書や公式ガイドブックで触れていない不手際付。これらを熟知して最適な成長を遂げても終盤は鬼のように難しく、初回プレイは不可抗力の手詰まりに陥った人も多いでしょう。 ストーリー性とキャラクター性を蔑ろにし、感情移入が困難なのは悔やまれます。前者が語られるのはオープニングのみで、自分がどんな背景で連戦に身を置いているのやらだし、後者はユニットに固有の名詞と外見を与えながら性別の推察くらいしか許されず、ステージ間の状況説明とユニットの顔グラフィックが欲しいったらありません。説明書に数人分載ったイメージイラストは、可愛くも凛々しい独特な絵柄であり、絶対に活用すべきでした。 時折表示される象形文字に辞書機能で日本語を照らし合わせれば、悪魔側の戦略が判明したり、裏側でも天変地異が使えたり、100%達成で別モードの「レッドステージ」が出現したりする、魔物語の解読について。解読が単なる総当たり作業なのはともかく、表示の条件が「特定のステージで特定の進行状況で特定の地点を調べる」やら「特定のステージで特定の敵の攻撃時に低確率で」やらで、コンプリートは非現実的です。周回プレイ及び辞書データを継いで新規プレイに対応とは言え、私は2周×2回による徹底的な探索でも98%にとどまり、完璧な情報は載っていない公式ガイドブックを参考に1周追加で、ようやくでした。尚、別モードは自軍の参加ユニットが制限される以外の変化がエンディングを含めて一切無く、周回プレイによって全ユニットが成長しきった効果で通常モードより明らかに簡単と、存在価値に疑いが。希望を言えば、悪魔側で遊べれば良かったのに。 良質なゲームデザインを細部の粗で損なってしまった現状から、続編が出れば名作確定の気配がします。 |
■仙窟活龍大戦カオスシード | ★ | ◆ | ♪ | C |
・ジャンル:箱庭シミュレーション ・メーカー:ネバーランドカンパニー/ESP ・発売日:1998年1月29日 ・クリア状況:完遂/全なぞ窟/ハイパーボス面クリア/おめでとう!! | ||
公式ジャンルはダンジョン育成シミュレーションで、スーパーファミコン『カオスシード 〜風水回廊記〜』のリメイクとのこと。セガサターンの二大専門誌にコミックを連載した為、風水やら干支やら桃まんやらの古代中国風な舞台設定と、おおつきべるの&船戸明里が描いたキャラクターの認知度は高そうな反面、具体的な内容はあまり知られていないのでは。 四角い部屋と真っ直ぐな通路を碁盤上に置き、ダンジョン=仙窟を設営するのが基本で、部屋は個別に「燃料を生産」「作業員=仙獣を召喚」「侵入者を攻撃」等と8種類の役割を担います。ここに風水の木火土金水を元に流れてゆく気の存在が育成たる所以で、気の加算→部屋の強化→仙窟の機能性向上の積み重ねが、クリアへの手順。文章で説明したら複雑で、実際に遊んでも複雑と、広告で「おつかいゲームに満足ですか?不満な方にだけ本物が挑戦します」と煽った通りの取っ付きにくさながら、チュートリアル及びヘルプに初心者熱烈歓迎の本音が隠せません。それは他に類を見ない手厚さで、中でもQ&Aは物珍しいことに実況プレイ方式の解説ムービーが何本も収録されており、優しい教官が側にいてくれるが如くの頼り甲斐でした。 仙窟の設営は様々な制限を科しつつも、相当な自由度を保ちます。なにせ、自分が同一の条件下で繰り返しプレイしても、同一の完成形が出ません。これはプレイヤーの創意工夫が縛られない証で、アイテムによる卑怯っぽい解法を許容した大らかさも含め、仙窟は使い捨てで一つを作り込んでいかない実情に的確。完遂までに少なくとも100時間が必要にも拘らず、退屈や面倒を感じにくいのが驚きです。 以上の要素で構築したシミュレーションとしても良作で、エンディングへの進路を余所に仙窟へ閉じこもっても一興。更に、侵入者との交戦を中心としたアクション性、経験値を稼いだりパーティを組んだりするRPG性、オムニバス+マルチエンディングのアドベンチャー性を、拒絶反応無しに掛け合わせた奇跡的調合が、傑作にたらしめました。ジャンルを雑多に詰め込んだ試みは数あれど、どこを抜いても完成度が下がってしまう本作は、稀有な成功例です。 アドベンチャー性に踏み込めば、単にクリア条件の違いを設ける方法として導入した訳ではなく、各章に本格的な台本を分岐込みで用意しつつ、普通は乖離しがちなゲームデザインとシナリオを密接に絡めた点を見逃せません。このシナリオがあってのゲームデザインとも、このゲームデザインがあってのシナリオとも思え、親和性が本当に高いです。また、主人公を悪人と誤解して成敗を図る善人たちと言った構図が新鮮だし、自覚無き因縁を紡いでゆく重たい主題を底辺に、切なさや虚無感を痛切に覚えさせるシーンを中間に、個性の強い登場人物を手玉に取った明るい笑いを表面に置く、終始巧みな構成力が見事。皆の自己主張が強い割に、感情移入を阻む嫌悪感を催されたりはしない辺りも、優秀な書き手が務めた表れでしょう。 膨大なチビキャラのアニメパターンが愛しいとか、無駄なお喋りを排して掛け声やナビゲーションを主とした声優の使い方が好ましいとか、雰囲気にぴったりで多彩な音楽が快いとか、息抜き用のステージと面クリア型の別モードがあって嬉しいとか、品質が高くて枚数も豊富な一枚絵が楽しいとか、一文に纏めては申し訳無い小さな美点も多し。そして、漫才付のキャラクター紹介・アフレコ付のコミック・言葉遊び付のミニゲーム諸々と、本編では堪能しにくい部分の魅力を補完してくれる、初回限定版のおまけディスクでとどめを刺されました。声優ファンを当て込んだ販促かと思いきや、広告で「こんなに入れたら会社が赤字!?」と謳った通りの満漢全席的充実度で、良い意味で名が体を表していませんね。 そんな絶対無敵っぽい本作も、十全十美には届きません。スキップ出来ずに延々と眺めなければならない画面の頻出を不満の頂点に、キーアサインとインターフェースが最適化されていないし、攻撃手段も魔法も仙獣もアイテムも半分が適量だし、部屋の種類だって役割を重複させれば減らせたし、不便なセーブ&ロードが試行錯誤の労力を上げるし。専門誌に詳細な攻略が出揃ってからプレイした私には当てはまりませんが、数多の分岐の条件が自力で解明不可能なのも、発売日購入組の反感を買ったはず。これらは他人への薦めにくさに繋がっており、ユーザーレビューの盛況とは裏腹に販売本数が伸び悩んだ遠因ではないでしょうか。 後に、設定資料集の刊行を後押しすべく船戸明里が配布した宣伝バナーを、当時の自分のウェブサイトに載せた過去もあり、セガサターンの中では一際ご贔屓な作品です。 |
■プロ野球チームもつくろう! | C |
・ジャンル:経営シミュレーション ・メーカー:セガ ・発売日:1998年2月19日 ・クリア状況:エンディング | ||
名が体を表す通り、日本のプロ野球版『Jリーグ プロサッカークラブをつくろう!』で、好きな球団のオーナーとなり30年後のゴールを目指します。現役大リーガーの野茂英雄が監修した編成ルールや、パンチョ伊東の音声出演が話題を呼びました。 リアルでシリアスな『サカつく』シリーズとは正反対の方向性と、サイドディッシュへの凝り具合が功を奏し、焼き直しのレッテルを貼らせません。これに最も貢献したのは、顔・胴・手・足を宙に分離させた二頭身で、ポリゴンのカクカクを隠さない個性的なキャラクターでしょう。巨大な立方体に描かれた人相は老若男女の分け隔て無しに微笑ましく、首・腕・腿の省略で少ないパーツを物ともせずに愛嬌を振り撒く姿は、まさに『野球つく』の名物。開発上の妥協の産物なのかもしれませんけど、このデザインを採用した勇気を称えたいです。 経営に欠かせないパートナーの秘書は、32人の大所帯に4系統のメッセージが用意され、5年毎に可能な交代を有意義にしました。オフィスでの活動風景も内容充実で、人目を盗んで机上のダンスに励む彼女を発見した時の反応は、取り分け絶品です。他に、女性や人外生物を選手に出来る等のおふざけが満載なのと、パンチョ伊東の司会で開催されるドラフト会議が、硬軟織り交ぜての退屈防止策。前者は賛否ありでも、後者は緊張感を覚える程に本物さながらの再現度で、ヘビーなプロ野球ファンも納得でしょう。 そんな初心者歓迎の明るい作風に、個人競技色が濃い題材の性質が重なり、メインディッシュの育成は単純化。現実と違って一流の万能選手を容易に揃えられるので、投手力重視みたくチームのカラーを追求しても、代走要員みたくスペシャリストを確保しても意味がありません。そして、持ち球や得意ゾーンのような細かいパラメーターが排され、最高レベルの首脳陣を初年に雇えては、本当に放任主義で構わないのです。尚、既存の球団を現状ママで引き継ぐ仕様により、開始時点の支配下選手は能力に下方修正が掛かるらしく、実益優先ならば高年俸のベテランから将来有望な若手まで次々にトレードへ出さざるを得ないのを、新規でプレイ予定の人はご留意下さい。 育成との二枚看板にすべき試合観戦モードは、作風との兼ね合いで野球の複雑な駆け引きを導入していないのと、選手交代以外の指揮が不可能に近いのは受け入れられます。しかし、ダイジェストの選定基準が曖昧だわ、実況が大抵途切れてしまうわ、コミカルな演出を多用しながら雰囲気が平静だわで、期待外れ。ピッチャーの役割分担は監督が独断で決める為、試合を見ないと中途半端な選手を継投に使われて日常茶飯事に逆転負けを食らうのがまた、腹立たしいです。 本作の購入前に危惧したのが、サッカーとの年間試合数の違い。『サカつく』のゲームシステムでオープン戦+ペナントレース+日本シリーズ+α=150戦超×30年ならば、恐ろしい手間が必要だからです。この不安を開発者は共有せず、オープン戦のスキップやペナントレースのオート進行を実装しないばかりか、一戦毎の対戦カード表示・一節毎のスポーツニュース・一月毎の販売グッズ選択で流れを妨げ、連結が悪い画面・階層の深いコマンド・面倒なY/N決定で駄目押しと言う、数百時間後のエンディングを目指す者に過酷な忍耐を強いてきました。膨大な計算と記録を表裏で行い続ける割に処理速度は良好ながら、発売当時の同種ジャンルにおける比較でも本作の遅々として進まないゲーム内時間は顕著で、読み込みを任意で減らせる機能を付けてと愚痴らずにいられません。 トレードや契約更改の検討に必須の個人データを現場で見られない不配慮や、パスワード対戦で外国人選手が大活躍する謎の補正に、折悪しく「プロ野球脱税事件」の余波まで受けていますが、ドリームキャストで続編が発売されてから本作の評価は高まりました。選手の顔が全然似ていなかったり、深刻なバグに悩まされたりはしないからです。 |
■Shadows Of The TUSK |
・ジャンル:シミュレーション ・メーカー:ハドソン ・発売日:1998年5月21日 ・クリア状況:エンディング/全カード | ||
全40種のカードから最大8枚のデッキを組み、同条件の敵軍と5×5の盤上で知的に戦う、公式ジャンルはキャラクターギャザリングシミュレーション。初心者用のストーリーモードと上級者用のカード収集モードの他、対人戦はX-BANDにも対応します。重厚なハイファンタジーを基調に、ロボットや中華娘も登場するごった煮のカードを巧みに描いたのはイラストレーターの松下進で、画面の再現度も上々です。 概要はチェスとカードゲームの合体と表せ、あらゆる計算に偶然性を排したのと、攻撃・回復・強化の対象が敵味方無関係なのと、移動と行動を別個扱いにしてAの行動→Bの移動→Bの行動→Cの行動→Aの移動→Cの移動のように、柔軟な連携を可能にしたのが特色。駒には種族の差異や飛行の有無に「隣接する味方の攻撃力+1」「魔法を受け付けない」「HPが自然減少」等の様々な個性付けが成され、盤上では駒の配置や特殊能力の使用に必要なポイントを補充すべく場所取りの駆け引きが加わり、一手誤ると挽回困難なシビアさも手伝って確かな奥深さ。乱数の影響外で複雑な戦法を編み出せる分、最善手の追求で容易く底が割れても不思議ではありませんが、この作り込みなら大丈夫でしょう。ただ、デッキ編成時点での勝敗分岐を是正すべく、盤上の使用枚数制限を設ければ尚良かったかもしれませんね。 優秀なゲームデザインに対し、ゲームソフトとしての品質はどうでしょう。真っ先に露呈する問題が、必至はおろか詰みすら認識しないCPUの思考ルーチン。先手を取って敵将の目前に高攻撃力の駒を呼び出す安直な攻めだけで、対人戦と無縁の環境では100%近い勝率が約束されてしまいます。ストーリーモードもたったの8ステージで空虚なまま終わり、カード毎に読める異様な凝り具合の紹介文に物凄い展開の後日談が含まれるとは言え、脳内補完の材料には不十分です。あと、クリア済のステージはプロローグを二度と見られない、明らかな不具合も。 常駐する文字情報と大きなウィンドウが盤面の視認に邪魔だわ、どの駒が未行動なのか見分けにくいわ、敵のデッキのストック数がわからないわ、早送りにボタンのホールドが必須だわ、攻撃のカーソルに難があり意図しない自傷行為が頻発するわ、大半の処理を並列に片付けないからターン開始と戦闘シーンのテンポが悪いわで、実戦中の苦情に限っても結構な量。全体を見渡せば、場面転換で15秒間も読み込むのに画面が真っ黒だったり、連戦したくても試合終了の度にモード選択へ必ず戻らされたり、高度な戦略を謳いながら感想戦が出来なかったり、発売が老舗メーカーの割に開発センスが貧しくて困ります。そして、最後の最後に発覚したのが、前代未聞の破滅的欠陥です。 ストーリーモードの継続性が皆無な為、1人用のメインはカード収集モードになります。敗北で没収される自軍の1枚=アンティを決め、数十パターンのデッキからランダムに現れる敵軍に勝利すれば、その内の1枚をアンティのレア度S〜Cに応じてランダムに配られるのがルール。アンティが1枚限定かつトレード不可故にダブったカードはゴミ同然で、特定枚数に達したカードを配布から除外する手心も無い、過酷な運試しです。A〜Cの計38種は約150枚と許容範囲の手間で揃えられ、残る2種がSと言えども折り返しは過ぎたはずと予測したら、初入手すら保存データ上で621枚目まで待たねばならず、ランダム×ランダムの無慈悲さを痛感しました。なけなしのAを没収はご勘弁と、リセットによるペナルティへの心配からバックアップ用のデータで幾度か再開しており、実数は700枚超でしょう。 カードには獲得シーンで固有の台詞があり、正体の判明まで余計な演出をスキップしにくいのと、前述の長い読み込み及び連戦不可の仕様が大変な苦痛で、当初は短所と受け取ったお莫迦な思考ルーチンが唯一の救いだったりします。2人用の悪用でカードを増殖させれば台詞は見直せ、BGMのオフで一戦当たりの所要時間が数秒短縮され、アンティの没収は試合中のリセットで免れますが、焼け石に水です。連戦連敗で手持ちのカードが尽きる恐れをプログラムが全く想定せず、コンプリートのご褒美はこっそり追加される効果音テストだけと、プレイヤーが不毛な単純作業に注いだ時間のほとんどを無駄にさせておきながら、自分の仕事として注ぐ時間は一手間でも惜しむなんて、つれない開発陣だこと。 ここより本題です。アンティSで入手カードCが30枚連続したかと思えば、操作ミスでアンティBになったら入手カードSで念願のコンプリート達成と言う、両極端な体験がきっかけでした。疑念を抱いて検証すると、特定のデッキで特定のマスをアンティにすれば特定の高レア度が絶対に配られる、強烈なバグを観測。法則を詳細に掴めない現状でも、アンティCで入手カードSが確定のケースを簡単に作り出せ、この反作用が上記の30枚連続なのでしょう。気付くのが遅過ぎて真実を暴く勇気は持てませんが、如何なる状況においてもアンティが完全に無意味なのだとしたら想像を絶する悪行で、ここに罵詈雑言を記しても罰は当たりますまい。 パッケージにはSを除いた38種の紙製カードが付属し、不純物塗れのディスクから美しきゲームデザインのみを卓上に抽出出来ます。しかし、そこにはゲーム内と同一の紹介文が記載されており、迂闊に読むとカード収集モードの数少ない動機付けを失ってしまうので、ご注意あれ。 |