■セガサターンソフトレビュー(アドベンチャー) |
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■ゆみみみっくす REMIX | C |
・ジャンル:デジタルコミック ・メーカー:ゲームアーツ ・発売日:1995年7月28日 ・クリア状況:全エンディング/クリア(ゆみみぱずる) | ||
発売後にメガドライブ専門誌の読者投票で、並み居る名作を押しのけて大番狂わせの275本中第1位を獲得したメガCD『ゆみみみっくす』を、後の『だいなあいらん』への架け橋として移植。内容は少女漫画家の竹本泉が制作に大きく関わった長編アニメで、動画枚数は7000枚に及びます。 乱れない作画と素早い読み込みを基本に、フル画面・フルボイス・フルアニメーションの1プレイ90分が収録される、驚異の開発力が成した完全無欠の仕上がり。物語は「大声で騒ぐ・根性で変身・歌をうたう」みたく具体的な選択肢からの決定だけで進行し、ともすればゲーム性の欠如がコストパフォーマンスに悪影響を与えそうだが、序中盤は細かい分岐を豊富に、終盤は異なる過程を経て3種類のエンディングを用意しており、複数回の視聴に耐えられる。選択肢が長々と出ないシーケンスや、ドットの粗い斜線は気になるものの、発売日の1993年において規格外品だと評しても過言ではない。以上、メガCD版のレビューでした。竹本泉の知識が無い私ですらこうでしたから、ファンならもう「どってんばってん」ものでは。 発色が良くなった、画像処理が滑らかになった、読み込みが短くなった、BGMがアレンジされた、ミニゲームが付いた──と、リミックスの由来を一つずつ挙げたところで、そのままコンバートしただけとの実感は払拭出来ません。解消したと謳いながら全然な台詞の矛盾と、相変わらず不可能な本編の早送りも何故か。ただ、同社のメガCDからセガサターンに移植された全4作で、本作だけが改悪を伴っていないことは考慮に値します。ミニゲームの「ゆみみぱずる」は単純作業に終始し、バックアップに非対応なのが解せませんけど、40枚のCGとサウンドテストに付いてきたおまけモードに文句を返すのは相応しくないですね。 シナリオを単語の連結で表現すれば、現代学園恋愛SFドタバタコメディ。シュールで様々な見目形の生き物が現れた学校で、運動音痴かつ空想癖持ちな弓美がボケて、才色兼備で大食漢の桜子がツッコみ、弓美に頬擦りしたがる不思議な美少女のりえが戸惑い、シニカルなナレーションが被さります。 カットの取捨が難で欠伸を誘われがちな反面、メタフィクションの多用でプレイヤーを映像の傍観者にさせず、非日常が日常に回帰してゆくまでの一騒動は充実度満点で、私は閉幕と共に快い疲労感を得られました。弓美の心境に応じて背景に花が咲く、桜子が場面の切り替え毎に違う食べ物を口にしている、拡縮回転機能を効果的に使う等の手を掛けた絵の演出に、適切な配役と独特の言葉遣いで声の吸引力も非常に強く、この世界はハマれば底無しでしょう。あと、本能の赴くままに寝坊させたり、嫌がるのを尻目に頬擦りさせたり、唐突に歌を唄わせたり、弓美を好き勝手に操って自分の悪戯心を満たす喜びも確かに。 シネパックのような圧縮ムービーを使用しないアニメーションであり、制作労力の多大さから後追いの類似作がほとんど見当たらず、今後も絶対に再利用されない手法なので、竹本泉の作風が肌に合わない人でも未体験は損だと思います。 |
■ZORK I |
・ジャンル:アドベンチャー ・メーカー:翔泳社 ・発売日:1996年3月15日 ・クリア状況:エンディング | ||
「手紙」「を」「読む」のように名詞・助詞・動詞を自力で入力し、テキストのみで冒険を進めてゆくTVゲームの始祖的海外作品を、ビジュアル・オーディオ・インターフェースに絞ってリメイク。強化部分をオフに切り替えれば、原作の仮想体験も可能です。 縦横の広大な箱庭に、多様な景観を内包して旅行気分を醸しつつ、独特の威厳で焦燥感と圧迫感も欠かさない異世界は、情報の出力が少ない故に浸れる逸品。ただ、入力の方は生真面目に表しても無機質な反応を幾度とされ、開始から数十分で期待が萎みました。原作の生年を考慮すれば当然な分、普通は「使う」の1クリックで済むところを「乗る」や「攻撃する」等と的確に指示しなければならないだけで、真の双方向性が楽しめないことはさっさと割り切りたいですね。総当たりを封じた無限の選択肢の中に理詰めで解けない謎だらけだわ、アイテムの所有制限が厳しくて捨てたり拾ったりに忙しいわの不親切さも、自ら好んで太古のアドベンチャーに挑戦した者が努めて受け入れるべきでしょう。 ゲームデザインの根幹を司る文字入力において、インターフェースには◎をあげられます。移動用の方向アイコンと、本文から名詞→選択候補から助詞→予測候補から動詞を決定の半自動方式が万能で、一文字ずつの手動入力はおろか補助機能の単語登録や履歴にも出番が回らないくらいでした。ただし、予測候補が完璧ではないのと、語順の前後で認識の成否に差が出るのは△を、用途不明瞭な記号類及び無駄に膨大な収録量の動詞リストで、要らぬ混乱を誘ってくるのは×を付けないといけません。あと、オープニングで原作の英語によるデモプレイを見せ、本編でアルファベットの入力だって出来るのに、英文を一切認識しないのは「?」です。 想像力の刺激を重視し、ビジュアルとオーディオは至って簡素にも拘わらず、処理は重ため。場面転換の頻繁な待ち時間は非常にまだるっこしく、それが連続するエリアでストレスは最高潮でしょう。環境設定が充実しており、演出面を削ぎ落とせば超高速化するとは言え、一部始終をオンメモリで済ませて然るべき小作品である自覚が足りません。 エンディングを迎えて実感した不備が、開発者の意図しない形でプレイヤーを誤解させがちな点。マップの果てを知らせる警告は「ナタが無いと無理」「戻れなさそうだから無理」「船では無理」等と歪曲的な物言いが多く、入力への拒絶を示す際にも明らかに誤った出力が多発し、正確な事実を理解しにくいのです。情景描写以上の意味を持たない自然物に拘ったり、材木とロープでイカダの製作に試行錯誤して諦めかけたらさも作れるように匂わされたりのテキストと、方向アイコンの不具合も相俟って北西へ進めるようにしか見えなかったり、最初から載った小道が通れない理由を最後に知って苦笑いだったりの地図に騙され、私はミスリードにハマりまくでした。 説明書にヒントと称して大半の解答を載せたのは、当シリーズを後にも先にも本作しかプレイしていない立場から支持します。なかなかわかり合えない文字入力だけでも負担なのに、理不尽な謎解きの数々まで強いられてはお手上げでしたから。 |
■だいなあいらん | G |
・ジャンル:デジタルコミック ・メーカー:ゲームアーツ ・発売日:1997年2月14日 ・クリア状況:だいなますたー/100回エンディング | ||
物語に関連はありませんが『ゆみみみっくす』の続編に位置し、動画枚数は18000枚以上だとか。タイトルの正式表記は「だいな」と「あいらん」の間にハートマークが入ります。 画面が一段と綺麗になり、読み込みが更に短くなり、巻き戻し&早送り・自動再生・達成率表示が導入され、セーブ&ロードの使い勝手が向上し…と、完全無欠と評したはずの『ゆみみみっくす』から遥かな進化を遂げています。一分の隙も無い美しさの映像が一時も休まずに動きまくり、気配り下手なゲームアーツらしからぬ親切心に寄り添われ、初プレイでは贅沢気分に浸れました。本作のアニメーションは他媒体で今日見られるそれとは似て非なる輝きで、どんなに技術が進化しようが曇りはしないでしょう。しかし、前作体験者を落胆させるに十分ながっかりポイントが、シナリオとキャラクターに。 恐竜使いになりたい双子姉妹の専門学校生活が概略のシナリオは、現代学園恋愛SFドタバタコメディの前作より恋愛とドタバタが失われ、展開が大人しくなりました。選択肢も生真面目で主人公を弄ぶ喜びを与えてくれず、普通の日常を何となく覗き込んでいる第三者的な意識に誘われがちです。そして、全長が45〜65分に短縮され、そろそろクライマックスかと思ったらエピローグだわ、分岐が幅広いのに結末は一つだわで、想像外のパワーダウンに呆気に取られたのは私だけではありますまい。演出が豪華な上に3種類もあるスタッフロールと、達成率等に応じて流れるご褒美の寸劇で、少しは心証を取り返してくれますけど。 個性と対人関係の弱いキャラクターが、シナリオへ悪影響をもたらしたとも受け取れます。主人公は弓美から空想癖を、その妹は桜子から大食漢を取り除いただけの性格だし、主要登場人物の5人中2人は添え物状態で、皆が絡んでも面白可笑しい化学反応が起きません。非常識人たちの深い繋がりを元に、愉快な程に楽しかったり淫靡な程に怪しかったりのシチュエーションが演じられた前作のお祭り騒ぎを、守り継いで欲しかったですね。ただ、一部の台詞や歌声で心がとろけてしまった、主人公の甘ったるい声質には花丸を差し上げましょう。 行き過ぎた妥協が細部に二つ。作品のテーマに音楽を据えたにも拘わらず、画面上の楽器や指揮の動きを演奏と同調させていないのが、滑稽に見えました。また、CD-DAは容量に余裕がありながら警告メッセージのみで、主題歌2曲と声優陣のメッセージが聞けた前作のサービス精神は何処へ。メーカーの立場を慮れば、サウンドトラックの購入を促す為でしょうが、この余波で本編の主題歌がモノラルで流れるのは頂けません。 締めに、コンプリートへの労力について。Rボタンの早送りは1シーンずつしか飛ばせませんが、実は方向キーの右を同時入力すれば効果が大幅に上がるので、「だいなますたー」への道は案外険しくありません。全ての寸劇が再見可能になる究極目標の「100回エンディング」も、セーブ&ロードでスタッフロールさえ流せばカウントされます。 |
■リアルサウンド 〜風のリグレット〜 | ★ |
・ジャンル:アドベンチャー ・メーカー:ワープ ・発売日:1997年7月18日 ・クリア状況:全エンディング(5種類) | ||
画面を使わずに音だけでプレイする空前絶後なTVゲームで、クリエイターは「業界の風雲児」こと飯野賢治。出演が柏原崇・菅野美穂・篠原涼子・裕木奈江・前田愛、スタッフが坂元裕二・鈴木慶一・矢野顕子と、一般層向けの起用も話題になりました。 素直に予想した通りの完成形、つまりは分岐付のラジオドラマでしかありません。FMのラジオドラマを聞き慣れていたせいか、音全般への感動も特に得られず。そもそも、アクションの臨場感やホラーの恐怖感と無縁な、本作のしっとりと静かな現代物のラブストーリーでは、その効果を活かしにくいでしょう。幼い頃に果たされなかった約束が十年後に波及してゆく、ミステリー色の強さには引き込まれた反面、夢オチに匹敵する程の酷い真相が待ち構えており、肯定は躊躇われます。台本は校閲が不十分で小さな誤りも目立ち、著名な脚本家が手掛けたとは信じにくいですね。 1周に約4時間が必要で、エンディングが5種類もあるのに、聴取のサポート機能は中断用のオートセーブだけ。選択肢の積み重ねで重要な分岐が決定される仕様との相性は最悪で、早送り・巻き戻し・停止を備えないなんて横暴でしょう。BGMが無意味に流れ続けたり、分岐によって長さがまちまちだったりと、尺を短縮したがらない姿勢が更に神経を逆撫でしますし。あと、コストパフォーマンスの明白な低さに目を瞑った発売日購入組からの難癖として、セガサターンのユーザーに合いそうもない豪華ミスキャストや、音質への自己満足的な拘りで4枚に増殖したディスクに、定価を抑える素振りが見えなくて残念でした。 そんなキズは数あれど、類似作が存在しない為に相対評価が不可能な追い風も込みで、未だに唯一無二な素晴らしき体験を授けてくれた、掛け替えの無い名作でもあります。真っ暗な部屋で独り瞼を閉じ、脳内に自動再生されてゆく神視点の映像は、夢で初めて見るような、記憶から取り出したような、不思議な感覚の世界。満員の電車・人気無い恋人宅・懐かしの母校・寂れた海水浴場・二人きりの観覧車・迫り来る台風・望んだ相手との再会・望まぬ相手との邂逅──終幕に向かって辿ってゆく情景の一つ一つが、聴覚を頼りに自分が無意識に描いた名場面で、これらの美しさは誰とも共有出来ない代わりに、本作への如何なる酷評も絶対に貶められません。画面を使わない試みは元より否定的に捉えられがちですが、もし同内容が実写で表現されていれば陳腐化したと思われ、映像を聞き手の想像力に委ねる英断は大成功でしたね。 1999年以降は実売価格と入手難度を除き、セガサターンでプレイするメリットは失われました。ディスクの交換が楽になり、風景写真やランダムパターン等の映像が楽しめ、セーブデータの管理が容易になり、ビジュアルメモリのミニゲームや『D2』体験版も付属し、おまけに定価もぐっと下がった、ドリームキャスト版をどうぞ。 |
■ぱにっくちゃん |
・ジャンル:デジタルコミック ・メーカー:イマジニア ・発売日:1997年8月8日 ・クリア状況:100% | ||
退屈な日常を繰り返すレンタルビデオ店員の主人公の前に、自分の描いたイラストと瓜二つな美少女──ぱにっくちゃんが現れてからの非日常を、古典的なデジタルコミックで。「巨匠、木村貴宏の最新作」「90分を越えるアニメーション」「OVAアドベンチャー」を自称します。 最初に言い切ってしまえば、ゲームソフトとしては極めて低品質。最悪なのが不正解の選択肢を選んだ際の処理で、選択肢と行動が噛み合わないとか、脈絡無しに選択画面に戻されるとか、単にエラー音を鳴らすだけで済ませてしまうとか、何を選ぼうが無意味だとか、ここまで義務を果たそうとしない開発者は史上初かも。アドベンチャーでは特に重要なCGも非常に地味で、メガドライブの水準にすら達していません。最後の砦であるアニメーションの出来には唸らされましたが、「90分を越える」は使い回しやボイスパートを含めた過剰宣伝で、期待は禁物です。 稚拙な環境下で一点だけ輝いているのが、シナリオの立派さ。ネタバレを回避したいので詳細は記せませんが、作風からは微塵も感じられない意外性が待ち受ける上、大から小まで全ての伏線を納得の形で回収してくれます。映画のビデオテープの世界に侵入して筋書きを変えてしまおうとするライバルと、彼女を止めさせようと奮戦するぱにっくちゃんと、巻き込まれ体質の主人公なんて茶番劇みたいな設定にも拘らず、根は大真面目なのです。こんなに広げに広げて綺麗に畳んだ大風呂敷を、私は他に知りません。 ただ、プロットが不明瞭な序盤を乗り越えられるかが大問題。腹立たしい程につまらない日常会話が延々と続いたり、なぜか全く同じアニメーションを4回も流したり、お寒いパロディを散々見せ付けられたり、主人公のボイスが過剰な熱演で耳障りだったりと、開始1時間は拷問ですから。裏を返せば、そこさえ凌げば没入度がぐんぐんと高まります。 達成度に応じてアニメーションテストや設定資料閲覧が可能になるのと、初回限定版の様々なおまけグッズは好印象。最後に警告として、説明書は映画のパンフレットを模したのかラストまでネタバレ全開となっており、プレイ前に読んではいけません。 |
■マリア ─君たちが生まれた理由─ | ★ | G |
・ジャンル:サウンドノベル ・メーカー:アクセラ/ブレイク ・発売日:1997年12月11日 ・クリア状況:全エンディング(4種類)/LEVEL99(ミニゲーム) | ||
幼少期に目前で両親が殺害された過去を持つ女子高校生が自殺を図り、新米外科医の主人公が彼女の主治医となって始まる、多重人格がテーマのサウンドノベル。途中には『夢見館』式の探索シーンもあります。 ブラウン管越しの閲覧に相応しい洗練されたテキストと、連続テレビドラマ風の構成で伏線が仕込まれては絡み合ってゆく台本と、賛美歌調の清らかなメインテーマを代表に映画でも通用しそうな音楽と、ここぞの盛り上がりを担う素晴らしい見応えのムービー。以上のように本作は玄人っぽい熟れた印象で、これはゲームオーバーを用意せず、ボタンを押していれば良きにつけ悪しきにつけ結末へ辿り着く物語性重視の作りを自覚し、力の入れ所を誤らなかった産物でしょう。これなら公式のインタビューで自画自賛が目立っても頷けます。 ヒロインのカウンセリングが進む度に、彼女が抑圧した感情を司る各人格が現れ、彼らと協調したり対立したりしつつ、少しずつ真実が解き明かされると同時に、主人公の生い立ちや病院内の事件が思わぬ形で関わってゆき…と言った物語は、心理的な題材を選んだだけのことはあり、登場人物の緻密な人格形成が成功の源。どのような過去を経て今の性格となったのか、きちんと踏まえた上で皆の行動を管理しているので、ご都合主義と無縁なんですね。儚い外面に芯の強さを秘めたヒロインに自然と惹かれ、我が身を主人公に重ね合わせた多くのプレイヤーが、誰を信じて誰を偽るかの葛藤に悩んだ後、個々のエンディングでカタルシスを得られたのではないでしょうか。 心を鬼にして責めれば、第3話末の超展開やフラグを正確に反映しないムービーは気になり、私はオフィシャルブックに収録のシナリオでしか知りませんけど、ラジオドラマの前日談と辻褄が合わない複数の事項に至っては明白なミスでしょう。少々のお遊び機能はあるものの、読み込みを含めた快適な進行の代償で寿命は短めだし、マルチエンディングなのに利便性不合格のセーブと非実装のスキップには苛立ちが。あと、スタッフロール・クリア後のおまけ・内蔵時計と連動で流れるムービーの全てが本編からの流用で、唐突に酷いネタバレを食らわされたのは痛かったです。そして、静止画については書くまでもないとだけ。 この魅力的な素材はサウンドノベルより、人格毎に信頼度を設定した恋愛アドベンチャーで見たかったですね。 |
■サウンドノベル 街 | ★ | ♪ | G |
・ジャンル:サウンドノベル ・メーカー:チュンソフト ・発売日:1998年1月22日 ・クリア状況:金のしおり読破 ⇒攻略ページ | ||
当時の渋谷を舞台に主人公8人+2人の5日間を小説と実写静止画で辿る、チュンソフト制サウンドノベルの最新作。任天堂ハードで出るべき作品がセガハードに独占供給となり、業界側は大盛り上がりとなった反面、ユーザー側は冷静な反応で話題性にそぐわない販売本数に終わりました。ただ、移植作や派生作が出されたり、2015年にイベントが行われたりと、評価及び人気は現在も高止まりしています。 各々の選択肢が他者にも影響を与えてゆき、ザッピングシステムでシナリオ間を自由に行き交えると聞いて。発売日直前まで購入意思が生じず、ゲーム雑誌の紹介記事に目を通していない俄かな私は、すぐに勘違いを自覚しました。なぜなら、正答以外の選択肢はバッドエンドと同義語で、物語がちっとも広がらないから。個々のシナリオが樹形図的に展開してゆくのだと思いきや、実質は一本道で宣伝倒れなのです。ザッピングにしても、結局は面白みに乏しい総当たり作業と化しており、更に10人の関わり合いが間違い電話や擦れ違い様ばかりで、シナリオとゲームシステムが大して絡んでいないのも意外。数多い端役の内外面が悪趣味で気色悪いとか、バックログやしおりの機能性が不十分だとか、小言も止まりません。 そんな芳しくない印象が如何に覆ったかと言えば、小説と実写静止画の品質に尽きるでしょう。それらはアドベンチャーとして薄いゲーム性を補って余りあり、脚本家・役者・撮影スタッフにプロフェッショナルが結集し、著しい労力を投じて形にした様子が強く伝わりました。意中の人へプロポーズに向かう元ヤクザやら、無茶なダイエットに励むぽっちゃり女性やら、三股中なのを隠そうと奮闘するイケメン高校生やらと、どう考えても感情移入し難い設定の主人公たちに対して、主観だと1日目終了時にはもう「早く2日目が読みたい!」と没頭していたことが、客観だと多くのユーザーが登場人物のみならず演者本人への愛着心を持ったことが、その凄さの証左。コメディ・ホラー・ハードボイルドとジャンルは多様なのに、どのシナリオも私は本当に大好きです。 文字や効果音を出すタイミングが考え抜かれていたり、ここぞの名場面では見応え最高な実写ムービーが挿入されたり、主題歌を筆頭に音楽が名曲揃いだったりと、演出面も抜群。文学や映画では表現しにくい、TVゲーム特有の武器を見事に有効活用しています。ただ、本作の魅力は実際にプレイしなければわからない要素が大半を占めており、こんなにも紙メディア映えしない名作は珍しいのでは。実写だから面白そうに見えないけど、実写だからこそやれば面白い、複雑な性質がゲームソフトとして不幸な身の上に化けてしまいました。 私の評価は満点に近いものの、絶対に許せないことが一つ。それは隠しシナリオ「花火」の出現条件で、説明書やザッピングで存在は露にも拘らず、条件を自力発見が困難な隠しコマンドにしたばかりか、セガサターン専門誌での公開までに半年も要しました。私はザッピングが隠しシナリオへの入口に違いないと血眼になって探し、高価な公式ガイドブックすら購入しており、開発者への心証は可愛さ余って憎さ百倍に。「花火」は本作を名作から超名作に格上げする程に重要な位置付けだけに、真摯なユーザーから恨みを買う素振りのせいで、点睛を欠きましたね。 移植版のように、バッドエンドリスト・追加シナリオ・サウンドテストは備えませんが、表現規制・プリクラモード・金のしおり・最後のヒミツ等、セガサターン版限定の優位性で今も独自の商品価値を保ちます。 |
■くのいち捕物帖 | G |
・ジャンル:育成アドベンチャー ・メーカー:CSK総合研究所/ポーラスター ・発売日:1998年2月5日 ・クリア状況:全エンディング(16個)/全札(25枚) | ||
一画面毎に選択肢で行動を決めてゆくアドベンチャーに、育成・カードバトル・ミニゲームを交えた、公儀隠密志望っ娘が主人公の愉快活発なファンタジー時代劇。パソコンからの移植で新イベントもあるとのこと。 普通ならセル塗りの汎用的な立ち絵で済ます通常画面を、TVゲームでは特異な肉筆風の筆触と水彩画調の着色による、使い回しを許さない全身絵と一枚絵で成り立たせたのが圧巻です。それは可愛らしくもほんのり怪しい雰囲気でお江戸の舞台背景に映え、次々と新しい画像が現れてゆく様に絵巻物を思い起こしました。合間の育成・戦闘・ムービーだって負けず劣らず、表現方法に違いはあれどきびきびと動きまくりで、グラフィックの全編が見所でしょう。あと、遊郭やら花魁やら入浴やら酒乱やら触手やら色仕掛けやらと、全年齢推奨を言い訳に時代劇のお約束を破りはしない、その意気や良し。尚、体験版から大きく修正されたシーンを見るに、セガチェックは食らったのかもしれません。 育成は添え物に近く、能力値が足りない時にちょちょいと利用する程度で、20種類も用意されたメニューの大半が序盤から使える意味が感じられません。選択肢で変化した能力値を通常画面で明示しない辺り、育成ものの鉄則を不勉強な証拠です。戦闘は付け合わせに近く、戦略要らずで何となく勝ててしまい、25枚も用意されたカードの大半が序盤から以下同文。アクションやコマンドだと忍者の多彩な技を表現しにくいので、カードにしただけなのでしょう。しかし、ごちゃ混ぜの各要素が本格的でないからこそ、ゲームシステムが纏まったとも受け取れます。 アドベンチャーとしては、選択肢と能力値による様々な分岐と、趣向を凝らした数々の寄り道が楽しい反面、粗筋が「助平悪代官を捕える」で終わってしまうメインシナリオにがっかりしました。30分のTVアニメでも語り切れそうなボリュームの一方通行に、謎解き等のゲーム性やどんでん返し等の物語性が盛り込まれず、重要人物を含めてNPCとの接点がすぐに失われ、常に会える相手との会話すら更新はほんの僅かですから。更に、前半は育成とミニゲームの不便さが、後半は必然性の乏しい戦闘の乱発が引き延ばし工作と化し、所要時間は短くないのが致命傷。折角のマルチエンディングも、条件を推察させてくれないものばかりだし、必需品のアルバムモードを備えず、価値を自ら損っています。 発売前のソフトレビューで指摘され、自分含めて大勢の購入意欲を削いだであろう、二大問題に関して。このタイプのアドベンチャーにおいて、セーブポイントが一ヶ所にしかないと言う驚くべき仕様は、好きな場所に瞬間移動が可能な全体マップでフォローされています。繰り返しのプレイが前提なゲームデザインにおいて、音声のスキップに非対応と言う厳しい足枷は、声優の出番が意外に少ないので許容範囲かと。故に、そもそも論を持ち出さなければ、前評判よりは遊び易いです。ただ、体験版にあった音声オン/オフの設定項目を、なぜか削除したのは解せません。 ベストエンディングは好感度が上がる行動をほぼ完璧にこなさなければならないのに、好感度を下げ続ける「さいせん箱をのぞく」の選択肢がセーブポイントにあり、しかもカーソルの初期位置──そんな嫌がらせが山盛りで、テストプレイが適切に実施されていないのでしょうか。フラグ管理のミスで好感度を減らされたり、画面が壮絶に崩壊して延々と直らない恐怖バグが残っていたりと、デバッグすら不十分ですし。尚、そのバグは深夜に恐ろしき悪霊どもと相対する直前の選択肢で発生し、偶然にしてはタイミングが悪過ぎますってば。 何だかんだで、主人公の魅力と全体の空気にほだされてしまい、苛立ちが募れど憎めない愛され上手な作品だと思いました。 |
■アナザー・メモリーズ | C | G |
・ジャンル:恋愛アドベンチャー ・メーカー:スターライトマリー ・発売日:1998年7月2日 ・クリア状況:全エンディング/CG空き2枚 ⇒攻略ページ | ||
剣と魔法の和製ファンタジーにおける学園生活を中心に、主人公の男の子となって7人の女の子と個別に交流を育みます。選択肢の決定に制限を設けた自我ゲージと、懐かしい少女漫画風のパステル画を取り込んだ一枚絵が特色で、先発の他機種版より音声とCGが増加。どこにも面影はありませんが、育成シミュレーション『ウィザーズハーモニー』の系譜です。 冗長なプロローグが終わったと思えば、当てのないカーソル移動と相当数のクリックを要求するイベントが続き、整理整頓知らずのシーン及びテキストは終演までお付き合い。暗転と効果音に頼った手抜き描写の多用が鈍足な画面切り替えを増殖させ、読み辛いだけな電光掲示板式のメッセージと、街中彷徨うこと必至の休日が足を引っ張り、なぜか接点の少なかった女の子がヒロインに電撃抜擢される不幸で駄目を押され、私は一つのエンディングのみで封印を検討しました。イベントのスキップが可能なのと、公式の攻略情報のお蔭で、何とか踏み留まれましたけど。 再三割り込む不要なシーンを抹消すべく、ジャンルをアドベンチャーに鞍替えして尚、シミュレーション色を排さないゲームデザインを叱りたいです。戦闘に使うカードを貰ったり、アルバイト先が増えたり、授業の能率が上がったり、プレイ上の実利が僅かなイベントの発生回数が膨大で憎らしいったらありませんから。ゲーム性に繋げたかったらしい自我ゲージも、1ミスでバッドエンド確定の厳格なフラグ管理に合わないばかりか、選択肢の正答が事前に判明してしまうお間抜けな結果に。そして、動きに癖があるカーソル、順序が変なクリックポイントの巡回、本気で気分を害した昼食シーンの咀嚼音を筆頭に耳障りな音響、ハッピーエンドを放棄してアイテムの購入に走らねばならないサウンドテスト、自力発見が困難な裏技になったデータベースと、既作に無い枝葉末節の問題まで孕んでおり、自社ブランドのデビュー作故に持ち前の開発力が顕在化したのでしょうか。 美点の一個目にはシナリオを掲げます。女の子はステレオタイプを揃えたように見せて、想い出だったり、生い立ちだったり、地位だったり、彼女らが何を背負っているのかを丁寧かつ辛辣に綴り、それに従った必然性の高い非日常をメインルートで体験させてくれる為、好感と共感が容易でした。シナリオは二転三転の大長編で予断を許さず、声優の名演も相俟って記憶に刻み込まれるエピソードが多々。それでいてTVゲーム的なぶっ飛んだ展開は控えめで、ヒロインが自分の側に実在するような現実味を欠かしませんし、感動へのアプローチをお涙頂戴的な手法で妥協しない潔さも併せて、恋愛ものの一言では片付けたくありません。二人で一つなシャーロット&シャーリーのシナリオは特に求心力が強く、同じ天真爛漫でも気質が違うイーフィーとマーシャの対比も好きですね。 そんな高評価をあげたいシナリオも、まだまだ洗練の余地あり。四季の表現不足と、主人公たちの所属クラブの活動風景が見えないのは、どちらの要素も『ウィズハ』では優れていた反動から劣化が目立ちます。他に、同行者を自由に決められそうで決められないわ、試験等の定例行事の扱いが途中から骨抜きになるわで、要所のイベントが肩透かしを食らわせてくるのと、ディレクター曰く「元々はテーブルトークRPG用のストーリー」だからか詰め込み気味の世界設定は、少し鼻に付きました。 二個目の美点は、本作の代名詞のパステル画。綺麗で、淡くて、清らかで、暖かい──なんて優しき言葉ばかりが思い浮かぶ一枚絵の数々は、本編と切り離して単体での鑑賞にも値します。マンボウのビーチ板を持つ水着姿のアリアン、丘から花火を観覧するティカ、雪の中に独り佇むシャーロット、布団で顔を隠す風邪引きのオリビア、見事な啖呵を切るイーフィー、森の中に独り佇むシャーリー、デザートを前に笑顔のマーシャと、何気無い光景も忘れられない名場面に早変わりし、あれやこれやの不満で荒みがちなプレイ中の心を真摯に潤してくれました。高解像度の表示でないのも、触れると壊れそうな儚い印象作りに正解でしょう。 でも、そんな雰囲気を大切に守ろうとしないから、作品内ではパステル画の方が場違いになっていて。通常画面のバストアップはアニメ絵な上にタッチも違うし、コミックリリーフの男性陣が煩いし、エキストラはギャグ漫画みたいな容姿だしで、幻滅です。裏ジャケットの立派な集合イラストを差し置き、作風と関連しないSDキャラで飾った表ジャケットが、実情を暗に物語ります。 現状ママでは改善すべき箇所が大量でお勧め出来ませんが、女の子キャラクター・シナリオ・パステル画を抽出し、シンプルに再構築すれば名作に生まれ変われるかもしれません。 |