●05/12/14 |
◆ガーランドのなみだ (郡司ななえ・ノンフィクション) 幼少期に体験したトラウマで本来なら犬嫌いであるはずの著者が、出産を機に憧れの子育て像を叶える為に挑戦した、盲導犬ベルナとの初めての出会いから永遠の別れまでを綴る『ベルナのしっぽ』の続編で、題名のガーランドはベルナの後任者の名前。前作のあとがきに「ベルナの死→夫の死→ガーランドの死」が僅か1年半の間に立て続けに発生してしまうことが書かれており、読むのは少し気が重たかったです。 どうして私たちには、こうも次々と悲しい出来事が襲ってくるのかしら──とは、悲劇の連鎖に対して著者が述懐した心境。更に指導員には怒られ、ガーランドには振り回され、息子には癇癪を起こされと、本の中にはたくさんの苦労が詰まっています。しかし、そのような自分のせいで生じた苦労は幾つも挙げられている割に、盲導犬と一緒に生活を送るにおいて他人のせいでさせられた苦労については、ほとんど記述がありません。当事者以外が読むと書き手の意図しない感情を読み手に芽生えさせる恐れのある部分は、きっと敢えて省略することを選ばれたのでしょう。 |
●05/11/08 |
◆リュシアンの血脈 夜よりほかに知るものはなく (冴木忍・ライトノベル) 世界に魔物を解き放った大魔術師の子孫であるが故に妖魔を呼び寄せる能力を持つ主人公が、己の呪われた血脈を断ち切る方法を求めて旅をするお話。昨冬に『天高く、雲は流れ』シリーズが待望の終演を果たしたことから、これでようやく新刊を追い続けないといけない強迫観念に悩まされなくなる──そんな喜びも束の間、何とか発売から数ヶ月は我慢したものの結局はこのように購入してしまう訳です。新シリーズはもう1つあるようなんですけど、無事に抵抗出来るのでしょうか。 確かに彼女の文体なのに以前と明らかに違う、これが読み始めから最後まで継続される印象です。起承転結がしっかり組み込まれた教科書通りの作りに加えて、情景描写の疎さ・語彙の少なさ・会話の不自然さ・進行の遅さ等、冴木作品に中期から延々と付き物だった欠陥が気持ち良いくらいに改善。世界や人物の解説を物語の進行と平行して開示させたり、主要なキャラクターたちとの出会いのエピソードを思いきって省略したりと、改めるべき箇所を改めて洗練された文章に感心させられました。角川スニーカー文庫における前シリーズ『遊々パラダイス』の悲劇からか、一話完結方式で巻数が未記載なのは苦笑いですが、この完成度なら大丈夫でしょう。 |
●05/10/25 |
◆はじめてだったころ (たかぎなおこ・エッセイ) 『上京はしたけれど。』に続く、初めての経験に纏わる悲喜交々を描いたイラストエッセイ。『150cmライフ。』に始まる4冊の既刊と装丁は全く同じなのに、なぜか発行元がメディアファクトリーから廣済堂出版に移っているのが不思議です。その為に背表紙の社名の部分が変わってしまい、本棚に並べた光景に少なからずの違和感が。またこのこととは無関係でしょうが、カバーを外しても奥付けに目を通しても以前までの作品のようなお楽しみが無かったのは、やや期待外れでした。 主な内容を目次から引用すると「はじめてのマクドナルド」「はじめての回転寿司」「はじめての居酒屋」と、今回のテーマ1冊目にしては食に関する話題が目立つのが残念で、率直に言えば全体的に面白みに欠けるきらいがありました。「はじめてのスーパーヒーロー」や「はじめてのマンガ投稿」のように気に入ったエピソードもありますけど、すぐに読み終わってしまう本にしてはワンパターンだったと思います。まえがきに「インターネット」「FAX」「おつかい」「バス」等のお題が挙げられているのですから、続編を描かれる際にはもっと幅広いエピソードを集めて欲しいですね。 |
●05/10/16 |
◆永遠の出口 (森 絵都・小説) 著者お得意の少女像を主人公に、幼児期から青年期に掛けてのエピソードを連続短編の形で描いたもので、巻末の解説によると「児童文学の粋を超えて初めて綴られた作品」とのこと。彼女の著作は『カラフル』『リズム』『ゴールド・フィッシュ』『宇宙のみなしご』の順番で読んだものの、あまりに『カラフル』が良過ぎた為か『リズム』以降は淋しい程に霞んで見えます。しかしながら、その3作品に共通していた『カラフル』以前に書かれたものである点が『永遠の出口』には該当しなかったので、期待と不安を交錯させて読み始めました。 柔らかな心を優しく突き刺して共感を呼び起こすようなエピソードが連なる序盤では期待が優勢で、主人公が説得力の無い理由で非行に走り始めてからは不安が立ち込めるも、家庭不和が表面化する中盤で盛り返してからは勢いで何とか最後まで読者の関心を繋ぎ止めています。つまり、全体の印象を纏めると『カラフル』には遠く及ばないまでもそこそこの出来…なんて思ったのも束の間、物語の終幕を飾る肝心要のエピローグが大変後味の悪いもので、腹立たしくなったくらいでした。苦難を乗り越えて世界を窮地から救った偉大なる英雄の物語に、その後の彼が暴君として君臨したエピローグを入れるとどうなるでしょう。清らかな心を王子様に見初められてお姫様となった薄幸の少女の物語に、その後の彼女が捻り曲がった性格になり結局出戻ることになったエピローグを入れるとどうなるでしょう。最初から最後まで守るべき作品の一貫性を安易に破壊してしまっているのは、決して作者の狙い通りではありますまい。 |
●05/10/10 |
◆リュカオーン (縄手秀幸・ライトノベル) 人が人の姿を失った遥かな未来の街に訪れた、トゲもウロコも無い非現実的な姿をした少女──そんな粗筋を書いたところで、この本の紹介は全然出来ていません。正しくは、あの神坂一と共に第一回ファンタジア長編小説大賞準入選を果たしたものの、シリーズ化やアニメ化で著者を長者番付に押し上げる程に大ヒットした『スレイヤーズ!』の陰で、ひっそり存在が抹消されていた幻の作品。発行は1990年ですが1994年版の解説目録では既に消えており、1992年辺りから富士見ファンタジア文庫を読み始めた身とて、ごく一部の巻末の宣伝で見掛けたくらいでした。 約300ページ近くと分厚い割に展開が早く、様々な謎や複線を散りばめては回収する工夫に好感触。それは物語を通じて伝えたい主張や想いを文章に込める際に、読者を蔑ろにしなかった証拠のように感じます。作者の語りが冗長になっていったり、最初に登場して感情移入させたキャラクターが端役に過ぎなかったり等の問題を許容すれば、準入選の名に恥じない古き良きライトノベル。21世紀に突入してからはアニメ・コミック好きの読者を狙い打ちしたジャンルに化けてしまいましたが、それ以前は「児童文学以上一般小説未満」の体裁を成していたことを思い起こさせてくれます。 |
●05/09/25 |
◆上京はしたけれど。 (たかぎなおこ・エッセイ) 『ひとりぐらしも5年め』に続く、上京に纏わる悲喜交々を描いたイラストエッセイ。イラストレーターになりたい一心で東京に来た作者が、売り込みで軽くあしらわれたりキャッチに引っ掛かりかけたりしつつも、夢へ着実に近づいていく姿を描いたサクセスストーリー、なんて言っては大袈裟でしょうか。でも、今では定期的に書籍が刊行されているのだから、上京して少なからずの成功を収められたことには間違いありますまい。 今春に『150cmライフ。』を読んで以来、彼女の作品はお気に入りになっていますが。彼女がこうして1997年の秋に「絶対東京に行くぞ〜!」と決心してくれなかったら、思った以上の厳しい日々に耐え兼ねてあっさり三重に帰っていたら、これまでに感想を書いた一連の著作は存在しなかった可能性が高い訳で。そんな想像を膨らますとエピソードをより深く味わえます。み。 |
●05/08/14 |
◆150cmライフ。2 (たかぎなおこ・エッセイ) 自身の身長の短さに纏わる悲喜交々を描いたイラストエッセイ本、2冊目。今作はメイクテクや洋服のお直し方法等が収録され、前作と比べればエッセイよりも実用書に近くなっています。これは帯に書かれている通り、読者対象が「150cmな女の子向け」な為。150cmでもなければ女の子でもない者にとっては、面白おかしく可愛いらしいエピソードが詰め込まれた前作の方が好みの作りなんですけど、2冊目ともなると話のネタも尽きてしまうのでしょう。 著者とは身長も性別も違う如月さんですが、エプロンの腰ヒモがドアノブに引っ掛かり「ちょっと待ったをくらってしまう」には共感でした。在宅時には羽織っているガウンによって、外出時には耳に付けっぱなしのイヤホンのコードによって、同様のトラブルに見舞われて困っているんです。どんなに気を付けても回避不能で、非常に悪質な罠だと思います。 |
●05/07/02 |
◆ひとりぐらしも5年め (たかぎなおこ・エッセイ) 『150cmライフ。』に続く、独り暮らしに纏わる悲喜交々を描いたイラストエッセイ。自炊・丼飯屋比較・病気・防犯・独り呑み等について、作者の味わう小さな幸せや大きな恐怖を共有しつつ傍観しつつ、個人的には初期の『ちびまる子ちゃん』のような雰囲気を感じて読んでいました。傍から見てこの方、性格が漫画のキャラクターみたいに愛らしいのです。かと言って突拍子もない言動や大袈裟な表現は伺えず、読者の好感を誘うのが非常に上手。イラストも文章も人当たりの柔らかい仕上がりです。 奥付けのスタッフ紹介で密かに「ひとりぐらし歴」が書き添えられていたり、前作と同様にカバーを外すと表紙にイラストが隠れていたり、気付く人しか気付かない工夫を惜しんでいないのも高評価。イラスト中心の本は活字主体のそれよりコストパフォーマンスが悪くなりますから、少しでも多く楽しみを潜ませてくれるのは嬉しいですね。 |
●05/06/19 |
◆苺ましまろ 4 (ばらスィー・コミック) 「かわいいは、正義!」→「かわいいなあ、もう!」→「かわいい。おかしい。」と劣化していった帯のコピーは、4巻目にして「キュ──────ト!!」とあまりの捻りの無さにがっかり。「かわいいは、優勝!」とか「かわいいは、有益!」とか「かわいいは、残酷!」とか、まだまだだ。 これまでは健気にいじられ役を演じる姿が気に入っていた美羽だけど、脈絡と突拍子が無い行動の激しさが天然のトラブルメーカーみたい。もし彼女が隣にいたら煩わしさの余り完全無視か、153ページの千佳みたく枕叩きの刑に処したくなるので、少し加減すべきでは。本作の全不幸を背負わされたかのような、笹塚君の扱いも含めて。 |
●05/06/08 |
◆もうひとつの夏へ 上&下 (飛火野耀・ライトノベル) 生まれて初めて小説に手を伸ばしたのは今から約15年前、著者のデビュー作として角川文庫から発刊された『イース 失われた王国』でした。小学5年生の頭脳には小難しい文章で1日50ページを目標に挑んだものの、止められなくなって気が付くとその日に読み終えていたことを覚えています。自分にとって特別とも言える作家で次回作も読もうと思ったはずなのに、彼の著作に触れたのは実に初めて以来になってしまいました。奥付によれば平成2年の作品で、時間が経ち過ぎたかもしれません。 上巻は周囲で発生する謎の現象を解き明かそうと、同じ志の仲間が少しずつ集まってゆく様子に感情移入し、早くページを進めたくて行を飛ばしたくなる程。しかし、下巻では必要性の低い描写が目立ったり、伏線に効力が見られなかったり、準主役から脇役まで大半の登場人物を放り出して完結させてしまったりで、印象は宜しくなくなりました。最大の欠点としては作中に3人存在するヒロインの内、主人公である著者自身がなぜ特定の人物に極端な思い入れを芽生えさせたのか、理由が見付からないこと。最後のページで解釈が提示されたのかもしれませんが、これは「そうなった原因」ではなく「そうであった結果」のはず。それを除いても、物語の根幹に自分の苦手な二大要素、パラレルワールドとタイムパラドックスを使われたのが辛いです。 |
●05/05/28 |
◆パラケルススの娘1 (五代ゆう・ライトノベル) ホラーやTVゲームのノベライズに十年余りを費やした著者が、久々に原点のライトノベルに立ち返った作品。富士見ファンタジア文庫からMF文庫にレーベルを移してはいますが、旧来のファンからすれば大歓迎です。最初から第1巻と銘打ってシリーズ化を視野に入れているのも、今まで単発企画か短編ばかりだった為、非常に期待させる要素となっています。しかし、読み終えての感想は芳しいものではなく、これまでの作品には必ず込められていた大切な部分が、全く感じられませんでした。 それは物語であったり世界観であったり主題であったりと姿形を変えつつも絶対に潜んでいた、切なる美しさ。美しさをこぼれ落とした彼女の文章は、読み手の胸を打つ力を失って無味乾燥な代物になってしまいました。更に代名詞の使用頻度が低くて名前が連呼されている文中や、(略)やら(新品)やらウケを狙った小細工が古過ぎる手法なのも気になります。曰く本作は「萌えに頑張った」とのことですが、妥協された仕上がりへの言い訳に聞こえました。萌え=登場人物への恋愛感情に似た過度の感情移入として解釈すると、例えば中盤からクライマックスにおける遼太郎とアナマリアの心の交流は、『機械じかけの神々』におけるスノウとヴィオレッタの関係でも行われたものですが、圧倒的に後者が優れた描写だと言わざるを得ません。一読者として見切りたい気持ちが買い続けて応援したい気持ちを上回ることのないよう、続巻に願いを。 |
●05/05/10 |
◆わたしはコンシェルジュ 「けっしてNOとは言えない」職業 (阿部 佳・エッセイ) ホテル客の様々な要望に答える奉仕役、万屋さんからの四方山話。コンシェルジュなんて旅行に疎い者からすればとんと縁の無い存在で、その肩書きはいつぞやマナー関連の本を読んだ時に初めて目にしました。唐突になりますが、災害の救出活動の話にしても如月さんは「名も知れぬ一般市民の善意による助け合い」より「レスキュー隊のプロフェッショナルな仕事」を好む傾向があるようで、その道の専門職の人が極めて高い志を持って職務に自身を捧げている姿には心を揺れ動かされます。まさにその手の意識が詰まった内容だと言えるでしょう。 ただし、個人的には「手を貸すのがサービス」が前提となっている点に、強い違和感が。例えば本文には「ルームサービスのメニューがない」や「極端に少ない館内表示」を「私どもがお世話させて頂きます。ご自分で探さずお尋ね下さい」と不親切ではなくサービス精神の表れだとしていますが、これは自己満足の大間違い。どのような立場の差があっても人手を借りることに気後れを感じる性格や、己の面倒は出来る限り己で看たい人は必ずいるのですから、時と場合により「手を貸さないのこそサービス」となりうる訳で。伝説の客室係における「朝、カーテンが閉まっていたらサッと開けて」の行なんて、自分含めて日差しに弱い者からすれば余計なお世話でしかありません。この辺りは接客業種全般に再考を求めたいですね。 |
●05/04/20 |
◆バンビ (ディズニークラシックス・文庫) 「ディズニーはあまり好きじゃない」と宣いつつ。過去を振り返れば、2年前に同シリーズの『ピーターパン』まで読んでますね。 バンビは結構好きなんです、その外見が。アニメーションで見た経験は皆無に近いものの、細く頼りない体躯は凄くしなやかに動きそうで、まさに「Elastic girl」と呼びたくなるような愛らしさですから。そんな彼女はどんな物語でどんな活躍をしているのか、知っておくべきだと思ったので購入しました。すると初めて直面する驚愕の事実、よもや男の子だったなんて。 |
●05/04/10 |
◆150cmライフ。 (たかぎなおこ・エッセイ) 自身の身長の短さに纏わる悲喜交々を描いたイラストエッセイ本。悲喜交々と言っても、日々すべき成長を怠けてしまった遺伝子や不便な生活を強いる世間への恨み辛み等は縁遠い存在で、悲を喜なり楽なり笑なりに還元した上での日常や思い出話が詰められています。時に憂鬱、時に必死、時に自慢のその様は、ありがちな形容詞になりますけど、簡素なイラストのタッチも相俟ってやっぱり「可愛い」としか言えません。 一番印象に残ったのは、苦手な試着を頭の中の想像で済ませて買ったワンピースが、いざ着てみると大き過ぎてちっとも似合わなかった際の台詞「ド○えもんがいたらスモールライトで服を〜」の部分。そこでドラえもんに頼れるのなら普通の感覚だと何より先に「ビッグライトで自分を〜」となると思うのですが、いつも困らされがちな自分の小ささを愛している作者の心情が垣間見えたような気がして、思わず微笑まされました。 |
●05/04/07 |
◆お嬢さま生活復習講座 (加藤ゑみ子・実用書) ここ数年で読んだ本の中で出色の内容だった『お嬢さまことば速修講座』の姉妹作で、2002年発行の改訂版を購入。お礼の仕方から普段の日常に至るまで、著者が定義するお嬢様らしい生活とは何ぞやを学びます。お嬢さま度測定テストの付録付ですが、如月さんは生まれつき「嬢」ではないので端から当てはまらず、非常に悔しい思いをしたとかしなかったとか。 本来はお嬢様ではない人を上辺だけでもお嬢様に取り繕わんとした前作は「お紅茶ではなく、コーヒーをいただきたいときは、何を言ったらよいのでしょうか?」の問いに「コーヒーではなく、お紅茶をいただくのが、お嬢さまでございます」と返す等、慎ましく上品な笑いがそこかしこに満ち溢れていたので、その手の面白さに期待していたのですが…ちょっと思惑が外れました。題名の嘘偽りのなさではこちらに軍配が上がる、本当にお嬢様生活を目指す為の実用書だったのです。 |
●05/03/15 |
◆裏庭 (梨木香歩・小説) 著作は2002年に『西の魔女が死んだ』以来、『りかさん』『からくりからくさ』と読んだものの、感想を綴るのは今回が初めて。お気に入り作家とまでは言えないけど琴線に引っ掛かる部分もある、微妙な位置です。少女とお年寄りの交流を用いて物語を紡いでゆくのがお好きなようで、当作も例外ではありません。しかし、現実世界が舞台だった既読作品と違って作中の大半が幻想世界に舞台を移して展開されるのには、前知識が無かったので違和感を覚えました。1995年児童文学ファンタジー大賞授賞って、解説だけじゃなくて粗筋にも書いて下さいよ。 その幻想世界の描写で問題なのが、情景の説明が希薄な上に行単位で目紛るしく変化するせいで、読み手として想像力が追い付かなかったこと。想像が出来なければ実感も出来ず、そのような文章によって操られる主人公が長々と旅を続ける様子に付き合うのは苦痛です。道中に事件はほとんど起こりませんし、主人公の行動や言動に確固たる動機が感じられないこともあって、作者にとっては必要な過程なのだと理解しつつも中盤から終盤には退屈さが隠せません。最終的に少女・母親・父親の心の中に鬱積されていた感情が澄み渡ってゆくのも、そうなるべき根拠が物語を通じて語られたようには思えず、その唐突さに面食らってしまいました。全体を通じて、主題の導き方と結論に納得が出来ない作品。 |
●05/03/11 |
◆食卓にビールを3 (小林めぐみ・ライトノベル) 昨夏に発売した1巻で元学生作家・現主婦作家のこばめぐ(禁句)が久しぶりに新境地を開拓した、そこそこ人気な気配のするシリーズの新作。長編よりも話の種を練り込むのが難しいと思われる短編集だし、早くも2巻で先行き不安を垣間見せたこともあり、こんな頻繁な刊行ペースでは粗悪乱造に繋がりそうな心配がぎゅんぎゅんしていましたが、この3巻では持ち直しています。作品の魅力の生かし方と物語の着眼点が上手で、それらをオチが一切の無駄なく纏めており、非常に偉いです。 かつて『特殊駆逐業者出勤ファイル』『ひよぴよ』等の作品でも「読者を笑わせる」目標に取り組んでいましたが、成功とは言い難いものでした。キャラクターの片寄った性格と会話の勢いに頼って、笑いを誘うような面白さではなく単に可笑しいだけの描写が目立っていたから。作者自身がそれを自覚して反省した訳ではないでしょうが、この『食卓にビールを』に取り入れられた笑い──粗筋曰く「思わずニヤリ」な部分に、初期作品の『ねこたま』『まさかな』『ねこのめ』の台詞回しで感じた心地好い笑みを浮かべているのって、きっと私だけではありますまい。 |
●05/02/19 |
◆お嬢さまことば速修講座 (加藤ゑみ子・実用書) わたくしは、非常に個性的な方言で有名な、大阪府の生まれであるせいか、人様から言葉遣いが清らかでない旨を、指摘されてしまった経験が、度々ございまして、このようなご本を鑑みることで、少しでも自分のよろしくない部分を、戒めつつ改めることが叶えばと、そのように存じた次第で、ございますの。その為に、いつもと口調の印象が違ってしまい、大変恐れ入ります。 速修の題名に嘘偽りのない、大変読み易く、丁寧な指導を頂けるご内容でして、読書や勉強と今一つ反りの合わないわたくしにも、ほんの短な時間で、効果てきめんとなりました。お嬢さまはとにかくゆっくり、じっくりと話さなければならないと教わりましたので、今回の文章には、読点の数がとても多くなってしまい、もしかしたら余計に、お目を煩わせたかもしれません。ごめんあそばせ。本当にお嬢様言葉とは、難しいものですこと。それでは、ごきげんよろしゅう。 |
●04/12/18 |
◆天高く、雲は流れ 15 (冴木忍・ライトノベル) 9年に渡って続いたシリーズの最終巻。序盤はまずまず面白かったものの中盤に入ると暗雲が立ち込め、当時制作中のファンサイトで行く末を案じていた過去を思い出さします。主人公が最初から完全無欠で如何なる災難に襲われても独力で解決して、その解決方法に最後まで根拠がなく読者を置いてきぼりにして、中盤からコンシューマRPGにおける「おつかいイベント」が多発して物語は進まなくなり、存在価値の薄い登場人物が現れては放置される連続。それでも耐えに耐えて最後まで見守って一番気になったのが、月日の流れ及びそれに準ずる人間の身体的成長を感じさせる描写が皆無なまま終わったこと。彼女の筆力の乏しさを如実に教える作品になってしまいました。 このように文句ばかりが浮かんでは消えない感想を抱きましたが、この最終巻は予想を遥かに超えた出来でもありました。僅かなページ数の中に可能な限り、自分が蒔いた種を刈り取る模様を詰め込んだ印象を受けましたから。その刈り取り方に肩透かしを食らう部分がありつつも、見て見ぬ振りせず責任を持って処理したのには好感を持ちます。物語の本筋のみを追い、名前のある登場人物を減らし、主人公を変更し、徒な文章を削る、その程度の小手先の修正を加えるだけで『卵王子カイルロッドの苦難』並に化けるのかもしれません。つまりは本作の迷走は著者自身が招いたと言うより、適切な校正を行っていない編集者が元凶でしょう。 |
●04/10/18 |
◆食卓にビールを2 (小林めぐみ・ライトノベル) 2年間の沈黙を破った前作から、瞬く間に刊行された続編。ここ数年はシリーズ化を視野に入れて書かれているのに、悲しいかな1冊目で打ち止めになってしまったと想像されるパターンが目立っており、作者読者共々に久々の景気いい話です。 本作のチャームポイントは、奇抜な設定を複数用意しつつそれらを一切混じらせないことによる可笑しさや気持ち良さだと思っていたら、どうやら独りよがりな勘違いだったみたい。なぜなら、その決まりは早くも破られたから。今巻の中編でSFチックな非日常が女子高生・小説家・新妻な日常を侵食してしまった点は、自分の感じていた楽しみ方を否定された気にされられて非常に残念。異質で突飛な価値観で描かれた非日常がごくごく普通の日常と融合してしまうと、それはもうツッコミどころ満載な設定になっちゃう訳です。素直かつ単純に笑えたのはその辺りが完璧に別個になっていたからこそで、流石に著者は読者の事情をよくわかってるなーと頷いていたのに。 |
●04/09/27 |
◆あなたにここにいて欲しい (新井素子・小説) その内向さ故に自分だけでは何も出来ない祥子と、彼女の世話を焼きたくて焼きたくて仕方無い真実。親友と言う言葉ではまるで足りないくらい極端なまでに精神的に繋がった「特殊な関係」である二人の女性が、ある騒動を経験した果て互いに「自分との、相手との、家族との正常な関係」を築き上げてゆくお話。膨大な既刊を誇る新井素子、好きになって10年弱は経つのにまだ20冊も読んでないのは如何なものかとずっと思ってまして、ようやく昭和59年出版の当作を読みました。 素ちゃんの得意技と言えば、一途過ぎる想いが狂気を帯びる様。2年前に読んだ新刊の『ハッピー・バースディ』で描き切れていなかった部分ですが、本作では存分に発揮されて恐ろしい程でした。三者三様の想いは激しく衝突し合い、傷付け合い、そして壊れもします。そんな若き日の感性を取り戻して、いつか新作に反映してくれれば嬉しいのだけど。あと、偶然にも9月20日の日記と主題が少し被っていて、その巡り合わせに驚きました。 |
●04/08/31 |
◆女子中学生の小さな大発見 (清邦彦・文庫) 似た題名で『Whiteberryの小さな大冒険』なんて曲もありますが、もちろんのことまるで関係ありません。中学生の自由研究のレポートをほんの数行に纏めて、それをたくさん集めて作られた本です。 こう書くと少し固そうな内容みたいになっちゃいますが、狙いはむしろ逆の方向になっていまして、くすくす笑えるものばっかりです。雰囲気としては、短文ネタ系テキストサイトを読む感じですね。「Oさんは万歩計をつけて寝てみました。朝までに12歩、歩いてました」「Nさんはアユの解剖をしました。おいしかったそうです」がお気に入りのネタです。失礼、ネタじゃなくてマヂでした。そしてたまにだけど、本当に感心させられる研究もあったり。そ、そうだったの…! |
●04/08/12 |
◆食卓にビールを (小林めぐみ・ライトノベル) 粗筋から洩れ伝わってくるキーワードは、16歳、女子高生、小説家、物理、食後のビール。そして、新妻…っておい、デビュー以来かたくなにライトノベルの硬派路線を守り続けたこばめぐ(禁句)の身に、一体何が起こったんだっ。心配で心配でなりませんでしたが、読み終えてみればそりゃもう見事なまでにこの作品、小林めぐみ色してました。特に真面目にちゃらけた会話のノリがかつての『ねこたま』を思い起こさせるので、旧作ファンには感慨深いものがあるかもしれません。本当にである。 夫婦の日常を書きつつ、女子高の日常も書きつつ、ぶっとびSF要素で展開させつつ、ビールやら物理で文章を潤わせ、ほんのちょこっと現実ともリンクさせる。作者が書きたかったであろう要素を全て詰め込ませているのに、それでいて物語の中ではほとんど混在していない点が良い意味で可笑しい。自分が何のジャンルを読んでるんだか見失っている内、あっちの世界に飛ばされこっちの世界に戻されるのです。こんな趣味に走り切った内容を商業作品にしたのって、実は凄いことなんじゃないかしら。 |
●04/07/28 |
◆モモ (ミヒャエル・エンデ・児童書) 読み継がれて語り継がれた、有名作品。小さい頃から思い継いだ、粗筋を知らないまま題名の響きの可愛さだけに惹かれて読んでみたくなった気持ちを、短くない年月を経て実らせました。ところで、リアノー・フライシャー『アニー』とか、ジャック・ドワイヨン『ポネット』とか、女性名のみの簡素な題名に妙に魅力を感じるのは如月さんだけでしょうか。 中身は想像より濃くて、作者の思想が存分に詰め込まれていました。それでも肩も凝らなければ息苦しくもさせない点が、とっても児童文学してるなと感心。多くの読み手は主人公のモモより、時間貯蓄銀行の灰色の男たちに哀愁を帯びた感情移入してしまいそう。だって、その存在こそが可哀相な奴らなのだから。そしてその憐憫はすぐに己へと跳ね返ってきて、あ痛たたた。あと、カシオペイアは美味しい役どころ取り過ぎです。10年以上前に買った近藤功司/冒険企画局『それでもRPGが好き!』における、「ぐげー。野崎は、カシオペイアがやりたいぞ」の意味がようやくわかって嬉しくなったりも。 |
●04/07/02 |
◆ほたる館物語 1 (あさのあつこ・児童書) 温泉町の老舗旅館を舞台に勤労小学生(語弊あり)の女の子が主人公の、児童書。今年になって児童書を読む回数が多くなったのはそれなりの理由がある訳ですが、上手に説明しようとすると長くなりそうなので、またの機会に日記で書きます。 主人公の性格は至って明朗快活で、引っ込み思案な親友がいて、お祖母さんがめっぽう強くて、全編大阪弁まみれで、読んでいて何となく『じゃりん子チエ』を思い浮かべたのは如月さんだけではありますまい。でも、あれみたいに複雑な家庭事情もなければ屈折した大人たちも登場しないので、良い子にも安心な仕上がりとなっております。子どもらしい感情を偽りなきまま弾けさせる描写が気持ち良く、作者が自身の生み出したキャラクターをいかに愛しつつ描いているのかが伝わってきました。あと、躍動感の潜むイラストのタッチが抜群で、特に表紙と目次はやたらめったらの可愛さです。 |
●04/06/30 |
◆S.F. sound furniture (capsule・CD) 発売してから一月近く購入する機会に恵まれず、その間に「とっても良い」と「さほど良くない」と言う相反する評判が手元に届いたりして、ちょっとした不安を抱えつつ聞き終えました。んでもって感想は、残念なことに後者寄りです。 ガーリーポップが持つお洒落さや可愛さを生み出す生命線って、唄声よりも楽曲よりも、歌詞にあると思います。それなのに、その肝心な部分に手抜きが目立つんですよね。ありふれたフレーズに、聞き飽きた単語に、ひたすら多い使い回しに。実は前作のレビューでこの憂いはやんわり指摘してたりして、ファンとしては複雑な気持ち。少なくとも『宇宙エレベーター』と『Super Scooter Happy』は磨かずとも煌きかけている素材だっただけに、手間暇を惜しまずもっともっと着飾らせてあげて欲しかったですね。 |
●04/04/27 |
◆リズム (森 絵都・児童書) 『カラフル』にて私事と私情の両方に絡んで見事なまでに感情を揺らされたので、これから少しずつ既刊に触れるつもりです。まずは1990年の講談社児童文学賞を授賞した、彼女の原点と言えるであろうこれから。 設定は普通で、思春期の女の子とその周囲で展開される「自分探し」のお話。主人公の特徴はちょっと粋な台詞回しが微笑ましいくらいで、他の登場人物も没個性。物語に必要な箇所に部品を当てはめただけで終わっている印象。社会の暗部や人間の恥部を徒に描かない点も普段なら性にあってるんだけど、上記の欠点も相俟ってテーマや説得力に重みと現実感が乏しく、デビュー作なんだから拙いのも当然で仕方無いのかも。 |
●04/04/16 |
◆苺ましまろ 3 (ばらスィー・コミック) 罪作りに思った「かわいいは、正義!」の第1巻、普通だと思った「かわいいなあ、もう!」の第2巻に続いて、第3巻では「かわいい。おかしい。」となった帯のコピー。巻を重ねる度に面白みが失われてゆく悲しさに、抗議なり苦情なり寄せたいです。次は「かわいいは、お手柄!」とか「かわいいは、快晴!」とか「かわいいは、当確!」とか使ってみて下さい。 緩い日常の緩いやり取りでページ中が支配されていた今までより、ネタの比重がかなり大きくなりました。一目でこちょこちょくすぐられるコマが増えてほわほわした雰囲気に包まれつつ笑わされ、中でも「しなびた白菜」「ぼくの顔をお食べ」「しゅじゅちゅちゅー!」が花丸。あと、いぢられキャラの美羽にとりわけ優しくしたエピソードは、その扱いを気の毒に感じてきた頃合いでタイミング良し。 |
●04/04/13 |
◆明日も元気にいきましょう (新井素子・エッセイ) こんな装置があれば今よりもっと便利な生活が送れるのに、と素ちゃんが馳せる思いを連載したもの。久々に読んだ彼女のエッセイですが、今作も二言目には「ぬいぐるみ」だし三言目には「旦那」だしで、家庭内に溢れる平和さは相変わらずでした。 それにしてもこの本、文体が己の日記と似ていて。途中から自分の書いた自分の知らない文章を自分が読み返しているような感覚に陥り、一人で笑ってしまいました。話し言葉の交え方とか、句点の位置でリズムをわざと乱すとか、本当に影響されていますね。 |
●04/04/09 |
◆リリイ・シュシュのすべて (岩井俊二・小説) 現実のインターネット上の掲示板を利用して、仮想のインターネット上の掲示板で繰り広げられた物語を描いた作品の、紙メディア版。謎多き事件の真相を複数のネット人格たちが文字で語り合いながら見い出してゆく前半と、それに至る経緯を犯人が一人で書き込みしてゆく後半に分かれます。完全に閉じきった殻の向こう側に隠された真実が、各人の書き込みのみを唯一の情報源として徐々に解き明かされる様は、実際の掲示板で今も行われているそのもの。次々に殻が破られ中から光が洩れてゆくこの過程は危うい妖しさを漂わせ、連載当時に興味を持ちつつもリアルタイムで体験はしなかった自分を後悔させます。 欠点は、リリイの影の薄さに無さに尽きます。作品の題名であり完璧な設定を構築した人物なのに、肝心の物語には大して関わらないんですよね。想像するに「リリイ」を「カヒミカリィ」や「セラニポージ」に置き換えても、ほぼ成立するんじゃないでしょうか。何者にも代え難い魅惑的な存在を生かしきれなかった点が、ちょこっと消化不良でした。 |
●04/03/27 |
◆NANA (カヒミ・カリィ・CD) どんなに好きなアーティストでも新譜情報にはほとほと疎く、いつの間に発売されたのかと店頭で焦りましたが、つい先日のことのようで一安心。見る者の瞳を奪うがごとくに妖艶な表情をしたジャケットは、歴代作品の中でも最高傑作です。本当に歳をとらないお方。 表題作はカヒミとしては久々に、普通な聞き手に普通に聞かせようとした意図を感じられる素直な楽曲。生めかしくないセクシーさと、やりすぎでない気だるさが好印象でした。でも、残り3曲は個人的に捨て曲だったりして、まさに「いい物もある。だけど悪い物もある」状態。あと、歌詞付と書いておきながらCDそのものにピクチャーレーベルのごとく印刷されていて、再生中には一切読めないってのはおいたが過ぎてやいませんか。 |
●04/03/22 |
◆バンド・クエスト 1〜2 (深沢美潮・ライトノベル) その名の通り、主人公を始めとした女の子がわーわー集まって「バンドやろう!」となる、いわゆる「イカ天」全盛期に書き始められた作品。角川スニーカー文庫の目録を読んで欲しくなるも、当時小学生だった如月さんは女の子向けレーベルで出版されては買うのが恥ずかしくて、そのまま長い時間が過ぎてしまいました。そして恥知らずな大人と化した今になり、読むに至る。 1巻でメンバーを集めて、2巻で楽器を揃えて。お次の3巻で完結らしいんですけど、残念ながら未入手。そう言えば店頭で見かけたことすらないと思って調べてみれば、最後だけ別レーベルの角川ルビー文庫から発売されたらしい。ル、ルビー文庫て。どうしてこんなにも健全な作品が、そんな怪しいところ(偏見)から…。 |
●04/03/15 |
◆魔女の宅急便 その4 キキの恋 (角野栄子・児童書) ほうきに乗って空を飛ぶ小さな魔女キキと、ご主人様思いなのに割とクールなお供の黒猫ジジ。1人と1匹は原作では順調に年齢を重ねていき、今作ではもう17歳になります。どうしたって映画から受けたイメージから離れてゆくのがちょっと淋しいけど、何となく前巻で終わりだと思ってた者としては、4冊目の発売は予想外の嬉しさをもたらしてくれました。そんな気持ちもキキが運んできたのかも、なんて恥ずかしい台詞を言ってしまうのも当然です。 えっと、トンボは役得。この本を読んだ人の全員が、こんな感想を抱いたことでしょう。いや、もう、あのクライマックスは確認するかのように読み返してしまいました。あと、ジジがキキに蔑ろにされてしまうシーンが目立ち、黒猫ファンの如月さんとしてはいた堪れません。負けずに頑張って欲しい、愛しのジジ。 |
●04/03/01 |
◆カラフル (森 絵都・児童書) 罪を犯しつつ死んでしまった命が、その忘れてしまった罪を思い出す為に他人の体を借りて現世に生き返ってからの様子を、コミカル調に描いたお話。子ども向け売り場に置いてあったので児童書の範疇かと思いきや、文中には「ラブホテル」「不倫」「セックス」等々の単語が飛び交うので、児童書風の中学生以上対象の作品だと考えた方が無難ですね。 生まれて此の方、こんなにも琴線に触れた物語はありませんでした。どうしてかって、中盤からはフィクションだと思えなくなったんですよ。作中と同じこと言われて、同じように振る舞って、同じように嬉しくなって、同じように疎ましくもなった経験があって。脆く壊れやすいのをわかっているから心の隅っこに追いやっていた想いや過去に、遠慮なく触られてしまう感覚。登場人物の性格は少しも似てないんだけど、主人公の台詞は確かに自分のだったし、ヒロインの台詞は確かに記憶の中の人のでした。 |
●04/02/27 |
◆さくらんぼ (大塚愛・CD+DVD) 店頭で悩み抜いた結果、未だに再生環境を持ってないのにDVD付を選んだ自分を後悔はしてません。去年の春の『花とアリス』と同じことしてますが、買わずに後悔するなら買って後悔しろと昔偉い人も言っていたので、全く問題無いです。 何が良いって「いぇい♪」や「もう1回!」と、充実した合いの手。この手の聞く側の心をこそこそくすぐる部分に如月さんの感性、物凄く弱いのです。それ故に、合いの手とコーラスまで省いてしまったカラオケバージョンの存在には、如何なものかと思わされましたけど。ヴォーカル無しでくすぐられたかったのに、ちょっと酷い。あと、歌詞カードの写真を少しえっちぃと思った事実は白状せねばなりますまい。 |
●04/02/23 |
◆ブルー・ポイント (日野鏡子・小説) 日野鏡子と言えば、戦争に明け暮れる砂漠世界に揺れ動く命たちの様を描いた『ラビア戦記』が実に思い出深い作品で、昔やっていた書評サイトで長々と批評を書いた記憶があります。それほどハマった割に、2年以上前に発売された本作を今更買っている奴。存在すら知りませんでした。 無意識の内に連れてこられた異世界から、あらゆる手段で脱出を試みる主人公。時折挿入されるフラッシュバックや、現実世界での事実が少しずつ折り重なってゆき、最終的に完全な真相が求められます。その展開が凄い早さで、1冊完結ではなくてもっと長く読みたかったですね。 |
●04/02/21 |
◆ぶどうの木 (坂本洋子・ノンフィクション) 「10人の"わが子"とすごした、里親18年の記録」が副題。里親なる単語はドキュメンタリー等で耳にすることはあれど、実際にどんな仕組みで営まれている制度なのか、よく知らない人が多数なのが実情でしょう。当たり前のごとくに世間からの無理解や偏見に晒され、掛け替えの無い善意を押し潰してしまう様子が、ただただ痛ましく理不尽です。お涙頂戴とか、感動の押し付けとか、安っぽくなく。 稀に協力する献血は別にして、寄付やボランティアなる言葉に拒絶反応があり、絶対に関わりたくない自分ですが。無知は罪そのものではなくても、罪作りであることは確実だと信じており、社会的な問題には少しでも関心を向けて、無意識下での罪を犯さないように生きたいと思っています。 |
●04/02/07 |
◆ポプラの秋 (湯本香樹実・小説) 7歳の「私」が父親亡き後に移り住んだアパートで、大家のお婆さんと交わし続けた秘密は、天国の父親に向けて綴った数々の手紙。18年後、お婆さんの死をきっかけに幼少期の記憶を振り返り、今の自分に自然と重ね合わせる内に感じる、微妙なズレや違和感が描かれます。 不意に突き付けられた悲しみに挫折の真っ只中で彷徨わされる現在と、突然消えた光の中で少しずつ明かりを見い出していった過去のコントラストが、胸に与えるほのかな痛み。かつて擦れ違ってしまった感情は延々と己を苦しめるの?と思わせつつ、その解決を何気ない伏線に用意していたクライマックスにほっとさせられました。終わりに掛けて、主人公の鬱積が美しく吐露される場面や、登場人物全員を出たきりにさせない纏め方も、かなり好みです。 |
●04/01/31 |
◆小説ヤダモン 上〜下 (面出明美・ライトノベル) 高校の時に上巻・中巻・下巻と一気に貸してもらったのに、3冊も読むのは面倒になってそのまま手をつけずに返しちゃった本。おいおい。適当に読み終えた振りしてゴメンなさい、罪滅ぼしに遅ればせながら読みました。 お話は意外なまでにシリアス調、最終的には世界救済クラスまで展開が広がるなんて想像もしてません。あの柔らかく真ん丸なキャラクターのタッチから、もっと明るくて楽しい日常のみを扱った作品だと思い込んでいたもので。何はともあれ、今までSUEZENの画集の中でしか知らなかった『ヤダモン』の設定や世界観を、これでようやく補完することに。 |
●04/01/21 |
◆宇宙でいちばんあかるい屋根 (野中ともそ・児童書) 1月15日の日記に書いた、たくさんの偶然が重なって巡り会うことになった本です。まず、主人公の女の子の描き方が上手で感心しました。最初は精神的に幼い風なんだけど、少しずつ彼女なりに育んでいる価値観や守っている枠組みが映し出され始めると、そのいたいけな頭の良さに否応なく感情移入。決して背伸びせず賢くコドモしているその様に、妙なもどかしさと既視感を覚えます。思い当たる人には結構、胸にくるものがありそう。 誰も悪いままでも傷ついたままでもなく、全ての登場人物に向けて作者がきちんと責任を持って救いを用意して終わらせる物語は、涙よりもむしろ笑顔を誘います。読後感は暖かくて、穏やか。どことなく、小学校の図書室で読み耽りたい雰囲気の一冊です。 |
●04/01/17 |
◆「ストロベリーチップス」 (HALCALI・CD) 品切れでもう買えないかもと、諦め模様だった初回盤を無事に入手。韻を踏んで唄う様子がどうしても駄洒落みたく聞こえてしまう如月さん、拒否反応が出ないか不安だったラップはサビを通せば何てことなく聞けました。可愛さとか音色とか、聞き手に向かってくる部分の耳触りが程々で、ほのかに心を浮かれさせてくれます。 あと、3曲目『この世界に、この両手に』が、どうしましょうってくらいに素晴らしくて困りました。街角の1コマを描いた歌詞と曲の物語としての完成度が高し。お目当ての曲ありきで買ったCDは、それ以外の収録曲は1回再生してサヨナラが今までの法則だったけど、良い意味で裏切られました。 |
●04/01/12 |
◆星降る森のリトル魔女 (めるへんめーかー・コミック) 購入経緯は12月27日の日記にて。作者には申し訳無いけど、古本です。彼女の存在を知った頃には既に新刊で手に入らない状況だったので、仕方ありませんゴメンなさい。それにしても本当に綺麗なまま保存されていて、前の持ち主の人柄が偲ばれる程。お気に入りの本とはいつだって、こんな風に接していたいですね。 王子様と結婚したい主人公→美形ゲスト現れる→主人公が一方的に惚れる→たまのこしたまのこし♪→しっちゃかめっちゃか→バッドエンド。1〜6巻まで各話、物語の筋は微笑ましいまでに同じ。見た目も性格も愛らしいキャラクターと、コマの隅まで生真面目に書き込まれた背景が、のんべんだらりな幻想世界の日常風景に読者を誘惑します。 |