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──── Liner note
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Be influenced ──
 
アイテムと心模様。
読んだ本・聞いた音楽・エトセトラ。
 
 
 
●17/07/11
◆白暮のクロニクル 11 春の陽の陰 (ゆうきまさみ・コミック)
 
 前巻では己の早とちりにより悪い意味で裏切られましたが、今巻は発売予定から遅れるずに完結を看取れました。『鉄腕バーディー』『パンゲアの娘 KUNIE』はかなり遅れて読んでおり、作者のコミックをリアルタイムで追ったのは『じゃじゃ馬グルーミン★UP!』以来。あの頃はコミックの発売日が待ち遠しく、自分がインターネットを始めた頃と重なり、ネタバレの洗礼も受けてしまいました。
 徹頭徹尾、自称「極上ミステリー」のはずの本作は、真価を発揮せぬまま。最も美味しい伏線である1巻のオープニングを、11巻のエンディングで使わないなんて、誰が想像出来るでしょう。本作に触れて初期から思い起こされたのが、作者の大昔の短編エッセイコミック『そこに知世がいれば』における、「その作品 ゆうきまさみには決して描けないであろう」「そういう作品は登場人物より作者の方が頭が良くなければ成立しないからだ」との一説。若かれし頃の作者には「ミステリーは描けない」と自覚があったのに、『白暮のクロニクル』へ「極上ミステリー」を冠したのは、自己評価の誤りや編集者の怠惰が否めません。ともかくこれにて、『でぃす×こみ』に専念してもらえれば嬉しいです。
 
●17/02/06
◆白暮のクロニクル 10 大きな羊は美しい2 (ゆうきまさみ・コミック)
 
 発売が予告より1ヶ月遅れましたが、決して作者の締め切り破りではなくて、出版社が『でぃす×こみ』2巻と同時に出したいからでしょう。それはともかく予告と言えば、「次巻で完結」しないなんて聞いないです。確かに読み返せば、次の1冊で終わりとは断言しておらず、自分の早とちりを認めざるを得ません。残り数ページまで気付けなかったのが、尚悔しい。
 主人公が物語の核である凶悪犯に誘拐され、殺害予定時刻が迫る中をモブキャラが捜し回っている内に、主要キャラクターが独自に現場を押さえ、めでたしめでたし。これだけで本巻の220ページ分をほとんど説明出来てしまい、時間軸が先の2巻前では「絶望的な状況」に見えた割に薄い顛末です。読者の知らぬ真相は少し晒されましたが、別に興味を惹かれるものではありませんし。明かすべき伏線はまだありますけど、本当に完結らしき次巻で本作への評価が高まる可能性は低いでしょうね。
 
●16/09/04
◆白暮のクロニクル 9 大きな羊は美しい (ゆうきまさみ・コミック)
 
 64ページのおまけと呼ぶには結構厚い小冊子が付く、特別版を購入。最近のTVドラマで使用された小道具の漫画原稿を作者が熱筆とのことで、下書きや完成原稿等を収録しています。そのドラマへの興味は皆無ですが、そんな人でも楽しめるように解説を添えた丁寧な作りでした。普段より約200円高いだけなので、大半の読者はこちらを選ぶのが正解では。
 ようやく謎多き1巻の続きが読めそう…これが本巻を読み終えての一番強い感想で、予告によれば次巻で完結の様子。今までは謎を解く為の伏線を少しずつ張っていると言うより、本筋と関連性の小さい寄り道に次ぐ寄り道ばかりに思えた分、無駄に長くは真相を隠しません宣言が出て安堵しました。ただ、また『鉄腕バーディー』『パンゲアの娘 KUNIE』の再来が起きないことは、祈らねばなりますまい。
 
●16/06/14
◆ひとり暮らしの小学生 2〜3 (松下幸市朗・電子コミック)
 
 コミック版の感想での予告通り、次巻は待たずに配信済の電子書籍版2冊を購入。下で電子書籍版の割安感を書いていたら、更にポイントが100円分も付きました。500ページを超えるカラー作品を400円で楽しめるなんて、電子書籍のデメリットを補って余りあるメリットでしょう。ほぼ2巻までコミック版に収録とは言え、トリミングと紙質に足を引っ張られない電子書籍版は目に気持ち良く、再読が苦にならないのも花丸です。
 1巻の冒頭の回想シーンから本編が始まる為、最後のあれは誰でも予想してしまえますが、そこへ至るまでの仕掛けが巧妙で、気付いた時には小さな幸福感が。特にコミック版の描き下ろし『ひとり暮らしの中学生』との関連には唸らされ、不満だらけのコミック版の評価が上がりました。ただ、中盤以降は登場人物が固定され、食堂の切り盛りより作品の主題に重点が置かれてしまうのが残念で、物語の急展開も相俟って残りページ数が減る度に、『ひとり暮らしの小学生』と自分の繋がりが消えてゆく淋しさまで増します。この世界はもっと見守っていたいので、例えば食堂の飛び込み客とのいざこざみたいな、時間を巻き戻した新作が欲しい。ところで、そもそもの設定にリアリティが無いと批判されがちみたいですが、本作は社会派漫画ではなく1980年代が舞台のシチュエーションコメディないしコミカルファンタジーであって、そこは敢えて放棄しているのでは。
 
●16/05/26
◆ひとり暮らしの小学生 江の島の夏 (松下幸市朗・コミック)
 
 生活上必要となり先月、タブレットを買って。暇潰しに「無料 4コマ」で電子書籍ストアを検索して見付けたのが、「全カラー&136ページ&無料」との大盤振る舞いな本作の第1巻。2年前の死亡事故でタイトル通りの身の上となった9歳の女の子が、今は亡き両親から継いだ食堂を切り盛りするのをコミカルに描く、簡単に表せば『じゃりン子チエ』から毒気を取り払ったような世界。主人公はチエ程には世間擦れしておらず、計算もお金儲けも下手な上に致命的な味覚オンチだけど、そこは周囲の大人や同級生の密かな善意がカバー。そして、過去に抱いていたであろう「両親を失った悲しみ」は全然描かれない為、切実な貧乏ネタや痛切な天涯孤独ネタもくすりと笑え、たまにほろりともさせられてしまいました。人物から背景まで丁寧に描かれており、大半の読者は作者の真摯な作品愛を感じ取れるのでは。
 全3巻完結で1冊250円と安価だけど、電子書籍よりもコミックが出ていればと思って調べると、間が良いことに十数日後の5月25日に紙書籍化!しかし、早速購入したら…まず、電子書籍だと横長4コマで1ページなのに、コミックは8コマで1ページに改められ、全コマの左右が大きくトリミングされたのが辛い。影響を減らそうと主に吹き出しを調整してはいますが、明らかに魅力を減退させています。次に、折角の全ページカラーなのに紙質の問題か発色が冴えず、安物タブレットに映す方が綺麗なのが悲しい。電子書籍なら500円で完結に対し、第1巻+ほぼ第2巻+描き下ろしで700円するし。電子前提の作りなのが災いして編集と価格の制約下にある強引な紙化で粗が出てしまったのは、作者と読者にとって不幸でしょう。次巻は待たず、電子版を買おっと。
 
●16/05/13
◆白暮のクロニクル 8 血に煙る聖夜 (ゆうきまさみ・コミック)
 
 1年前に『でぃす×こみ 1』の感想で「『パンゲアの娘』『バーディー』『白クロ』に好感を持てない」と書いてしまった自分に対し、ふと疑問が浮かびました。そもそも、とっくの昔にゆうきまさみのファンですらなくなっているのではと。そこで彼への信頼を取り戻すべく、2月〜3月に『機動警察パトレイバー』を全巻読み返してみました。うん、やはり素晴らしい。
 本作は1冊=1エピソード=1殺人事件の解決がお約束でしたが、今巻は絶望的な状況を冒頭数ページで提示してから時間が1ヶ月巻き戻り、様々な伏線を撒き散らしながら次巻へ続くとなります。この例外的なプロットにより、今までみたく「ミステリーを自称する癖にトリックに穴があり過ぎ」との感想は抱かずに済みました。それだけで一安心してしまうくらい、コミックを読む本質の喜びを本作に求めていないようです。
 
●16/01/10
◆白暮のクロニクル 7 銀幕に揺れる影 (ゆうきまさみ・コミック)
 
 多少の波はあれど順調に巻数を増やしていった本作に対し、コミック派への続報を待ちわびた『でぃす×こみ』は1年間の音沙汰無し。前者をさっさと完結ないし中断させて後者に専念してくれたら、なんて思ってしまうのは罰当たりでしょうか。前例に旧『鉄腕バーディー』がありますけど。
 ミステリーを自称しながら、ミステリーとして不成立である稚拙な構成が以前からの不満ですが、今回は閉鎖的な狭い空間を舞台とした効果で、警察が超無能なことが前提なのは相変わらずとは言えツッコミどころは少なめだし、複数の意外な新情報の提示で真相への興味が深まった──と一端は安堵したものの、読み返したら致命的な矛盾が。もう具体的に言えば「数馬さんの好物でしたよね?」で、この設定は犯行動機に対して絶対におかしい。作者は伏線の張り方には定評があるので、今まで抱いた数々の不満すら伏線の大逆転だったりして、とも思っておきます。
 
●15/12/09
◆アンダー ザ ローズ 9 春の賛歌 (船戸明里・コミック)
 
 第8巻より2年振りの刊行。今や、2年に1冊しか読めないのを嘆くより、2年に1冊は読めるのを歓迎したいくらいに待ち遠しい作品です。最寄りの書店に入荷しておらず、お店特典でイラストカードが付くとの事前情報もあり、アニメイトで購入しました。実に20年以上振りの入店です。
 2巻以降は毎冊毎に最高評価を与えたくなる程に、漫画としての魅力が増してゆくばかりの本作も、大半の伏線を回収し切って読み手の感情を暴力的に揺らしまくった8巻で一段落の感はあり、非常に落ち着いています。また、各人物の心理の変化が突拍子も無くて共感しにくく、細かく描き込まれてきた背景も白さが目立って残念。これまでは幾度と読み返したくなったのに、今巻は再読意欲が湧きませんが、2年後への助走だと信じましょう。
 
●15/08/30
◆白暮のクロニクル 6 壁のない迷宮 (ゆうきまさみ・コミック)
 
 前巻における今巻の発売告知が「8月30日頃」なのは、日曜日だからおかしい──と感じたのは正解で、数日前に発売されていました。今巻における次巻の発売告知が「12月末」なのは、その反省でしょうか。昨年末の4巻に対しては「12月28日ごろ」ですし。
 テンポ良く話が進み、長らく放置されていた登場人物と読者の情報共有が行われ、今までと少し違った性質のキャラクターの効果で会話が軽妙になり、読書中の感触は悪くありませんでした。しかし、自称に従いミステリーとして巻末に到着すれば、毎度の問題が今巻も相変わらず。直接的な殺害方法は提示しても、そこに至るまでの過程は明らかに困難なのに完全無視だし、証言も目撃者も遺留品も監視カメラも存在しない世界なのだと、作者が開き直ったとしか思えない丸投げっぷり。探偵役の推理では簡単に得られた証言等を重視するのに、それを凌駕する調査能力を持つはずの警察が犯人を捕まえられないことに、説得力は皆無です。本作を高評価する人は少なくないみたいですが、この辺りをどのように消化しているのでしょう?
 
●15/07/14
◆白暮のクロニクル 5 絶望の楽園 (ゆうきまさみ・コミック)
 
 本シリーズは刊行が安定しない為、読み始めるより先に巻末の次巻発売予告を覗いておくのが自分のお約束。不幸にも本編のラストが視界に入ってしまう危険性は、『鉄腕バーディー』から恒例の書き下ろしおまけページが防いでくれます。なのに、今回はなぜかあるはずのものが無くて、気付いた瞬間は目のやり場に困りました。
 そんな予想外の展開による心証悪化と、駄作と断定した前巻からの悪影響にも拘らず、本巻には好印象を持てました。その要因は、閉じられた空間での短い日常における人物交流をメインに据え、ミステリー色が非常に薄かったから。社会描写に現実味が乏しいとか、トリックが成立していないとか、今までのツッコミ待ちとしか思えない隙が存在しないんですね。1巻の帯で「極上ミステリー」と記した本作だけに、これでいいのかと思わなくはありませんけど、より良き方角を目指した路線変更なら歓迎です。
 
●15/03/18
◆白暮のクロニクル 4 Vの聖痕 (ゆうきまさみ・コミック)
 
 「次巻の発売はまさかの5ヶ月後」と嘆いたら、実際には更に10日遅れとなってしまいました。ただ、5巻との間隔は予定では4ヶ月弱で、「次の次が早い可能性に期待」は成就しそうです。でも、そんなことはどうでもいいかと無感情になった理由を、下に続けます。
 一言で評せば駄作だと、もう言い切ります。なにせ、本エピソードは殺人犯を関係者から絞り込んでゆく純粋なミステリーにも関わらず、犯人が殺害と死体遺棄をどのように行って捜査をかいくぐっているのか、描写が一切ありません。説得力が足りないとか、ご都合主義とかではなく、皆無なのです。読者が作中から得られる情報だけで判断すれば、家宅捜索すれば殺害の証拠が、防犯カメラや目撃者を調べれば死体遺棄の現場が、即発覚する状況でしょうに。コミックにしろ小説にしろ、ミステリーを全然読まない者にツッコミを入れられる時点で、作者は恥ずべきだと強烈に思いました。
 
●15/01/13
◆でぃす×こみ 1 (ゆうきまさみ・コミック)
 
 作者が週刊連載中の修羅場に「お兄さんが少女まんが描いて新人賞に妹の名前で応募して大賞取っちゃう」なんて新アイデアを編集者に話したら、数年後にまさかの企画採用。そして、よもやの単行本化。以前に第1話を試し読みしたら素直に続きが楽しみになった反面、読み切りに近い印象だから単行本化は遠そうだと予想しており、良い意味で裏切ってもらえました。
 その原動力はやっぱり、「少女まんが」を「BLコミック」に置き換えた好判断及び、毎話の冒頭に作中作を別の漫画家に着色してもらって収録したことでしょう。主人公の勝ち気な妹が、飄々とした兄と侃々諤々しつつ、担当編集者やお手伝い先のアシスタントに同級生まで関わってきて、今回はどんな作品を仕上げるのか──そんな読者の興味を最初の数ページで惹き付けてくれるんですね。また、編集者との打ち合わせ、仕事場の雰囲気、創作の技法等々で、漫画家生活35年の経験を振り返ったかのような面白可笑しい仕掛けが大量に盛り込まれ、頻繁に笑えるのも良。伏線やネタを出し惜しみしない感じが強い為、この勢いが第何巻まで維持されるのかは心配ながら、『パンゲアの娘』『バーディー』『白クロ』に好感を持てない自分にとっては、ゆうみまさみ作品の久々の大当たりとなりました。
 
●14/08/20
◆白暮のクロニクル 3 雲の上の灯 (ゆうきまさみ・コミック) 
 
 第2巻が出たばかりなのに第3巻がもう読めるなんてとの安堵及び祈りも空しく、次巻の発売はまさかの5ヶ月後。掲載誌を読んでいない者には、何がどうしてそうなるのかが全然わかりませんけど、贅沢は言いませんので今後はせめて、4ヶ月に1冊はお願いしたいものです。次との間が開く分、次の次が早い可能性に期待します。
 今巻も前巻と同様に、既出の事象をほぼ盛り込まずに構築されており、個人的な不満が再燃。作者の過去作『機動警察パトレイバー』においては、1コマの背景すら利用して本筋と挿話を密接に絡ませており、漫画技術の劣化を感じてしまいました。あと、「不老不死の特異な人間が社会に溶け込んだ現代が舞台」にも拘らず、現実世界との違いが主人公を介した狭い視点からしか感じられないのもマイナス。そんな人間が日本だけで十万人も存在するなら、例えば歴史論争に大きな影響が生じて当然で、架空世界にリアリティを持たす為の大局的な描写を入れるべきでしょう。
 
●14/05/03
◆白暮のクロニクル 2 霧の中の輪舞 (ゆうきまさみ・コミック)
 
 第1巻が出たばかりなのに第2巻がもう読めるなんてと、2年に1冊数年に1冊が基準だと、3ヶ月に1冊の刊行ペースはありがたいです。かつての『鉄腕バーディー』では途中から4ヶ月に1冊になってしまっており、どうか本作は維持されますように。他に作品自体以外への感想としては前巻に続き、傷み易くて水拭きも不可能な素材の表紙カバーが玉にキズではあります。
 読者に知って欲しい情報の提示を終えて本格的に物語が動き出すのかと思いきや、早くも本筋が足踏み状態で期待外れ。また、ミステリー色が無くなったのと、主要登場人物が随分と減少したのはともかく、前巻の最後に巻き起こった大事件の影響を一切触れずに日付を進めてゆくことには、特に首を傾げざるを得ません。巻末のおまけページに、敏腕女性編集者からのネームへの手厳しいチェックが描かれていますけど、コミックを年に数冊しか読まないような一素人読者の不満を、彼女は気付けなかったのでしょうか。
 
●14/02/20
◆白暮のクロニクル 1 犬は眠れぬ羊と踊る (ゆうきまさみ・コミック)
 
 長身と太眉毛がトレードマークな厚生労働省の女性新米公務員が主人公で、不老不死の特異な人類「オキナガ」が社会に溶け込んだ現代が舞台の、作者曰く極上ミステリー。知らない間に新刊が出てたりして…と、公式サイトを久々に覗いてみれば、奇遇にも本作の発売日翌日。お蔭で自分への贈り物気分を味わえました。
 いくら何でもそいつが犯人なら、警察が無能過ぎになっちゃうでしょ──なんて、まだまだ導入部なのだから物語への評価は保留して、開幕から大所帯なキャラクターの内、中年男性陣の各個たる存在感が特筆ものかと。格好良い・可愛らしい・憎たらしい・渋い等と多様な面子を揃えつつ、全員が組織及び個人として非常に有能な人物である点に興味を惹かれました。大昔のエッセイで『機動警察パトレイバー』を、「おじさんの魅力満載」と称していたのを思い起こさせます。
 
●14/01/12
◆アンダー ザ ローズ 8 春の賛歌 (船戸明里・コミック)
 
 第7巻より2年振りの続刊は大半が回想シーンで、シリーズ最厚のボリュームにも拘らず、進行は遅め。しかし、今まで断片的にしか提示されなかった20年間を詳細に描き切り、どこに着地点を持っていくのか興味津々も不安半分だった現状の問題が、それらの過去の清算と共有で一気に解決されてゆく様に、我が心が洗われ続けたと言っても大袈裟ではなく、幾度と再読しても感涙が止みません。別段の疑問とならずに受け入れられた事象すら、こんな深い背景があってのことだったのかと改めて膝を打ち、新刊の度に旧刊を読み直したくなるのは本作のお約束ですね。尚、残り50ページくらいから「もしや完結?」と予防線を張ったら大外れで、再び辛抱の2年間を過ごさねば。
 最も胸に響いたのは、悲しみと慈しみを内包した家族愛が主題の中、顔アップの多用による笑い・泣き・泣き笑いの表情の印象強さ。本作は皆が感情を抑圧する傾向が強く、作者が読者に脅迫的な程に感情移入を求めてくるメッセージ性は新鮮かつ強烈で、今巻における重要な台詞の「人生は舞台だ」を借りれば、自分もまた舞台の観客と化した気分。他に、端役から脇役へ格上げした少なからずの登場人物全員に善悪混淆な人的魅力を備えさせているとか、暗くて重たい雰囲気一辺倒になりそうなところで微笑ませてくれるとか、誉め言葉は尽きません。そんな中でほんのり心配なのは、今巻で一身に悪役を担った女性の今後。これまでと人物像があまりに異なり、過去の8巻から現在の1巻にきちんと繋がるのであれば、どんなエピソードが狭間に存在するのでしょう。
 
●13/10/30
◆鉄腕バーディー EVOLUTION 12〜13 (ゆうきまさみ・コミック)
 
 いつの間にやら話題が思わぬ方向に拡大し、宇宙的規模で種の起源やパラレルワールドが語られて、地球的規模のそれを描こうとして短期で打ち切られた作者の過去作『パンゲアの娘 KUNIE』が重なります。そして、重なったのは主題だけではなく、悲しくも「打ち切り」の印象まで。一気読みの立場上、物語の進みと残りのページ数が釣り合わなくて不安を覚えており、悪い意味で納得はしました。筆が乗って大風呂敷を広げた途端に、冷や水を浴びせられた感じですね。
 第1話における「何よりも君の自然寿命が半減するが…」の設定が、少しもフォローされなくて意外です。この設定に作品内で改めて触れられはしていませんが、2人の主人公を神視点から見守る者には重要な事実で、それこそクライマックスにとびっきりの伏線として使うのではと予想しており、本当にがっかり。掲載誌が休刊しても連載は続き、OVA・CDドラマ・TVアニメ等とメディアミックスに恵まれたにも拘らず、25年以上を掛けて消化不良な完結を迎えてしまい、最後まで幸福と不幸を行ったり来たりでしたね。
 
●13/08/09
◆週刊ファミ通 2013年8月29日増刊号 (ゲーム雑誌)
 
 2年前に本誌を初めて購入した時と大本の動機は同じく、今回はセガ家庭用ゲーム機事業30周年記念特別付録と銘打たれた「SEGA CONSUMER 30th ANNIVERSARY BOOK」が目当て。この間に感想は書いていませんが更に1冊、別冊付録「任天堂コンプリートカタログ」の為に、2012年1月19日増刊号を買っていました。過去に告白した通り、真の意味でセガオンリーユーザーな身の上とは言え、この約200ページのボリュームに裏付けられた凄まじい充実度に惹かれまして。幸か不幸か今も昔も、特に他社への敵対心なんて持っていませんしね。
 お目当ての品は期待外れ。表紙で「セガハード列伝」「懐かしのセガハード&名作いっぱい」と謳いながら、ハードは主要なもののカタログスペックをなぞるだけ、ゲームソフトに至ってはほとんど触れず、関係者へのインタビューが中心となっています。それはそれで構いませんが、読み応えがある訳でも新事実が知れる訳でも溜飲が下がる訳でもない、提灯記事的な印象の強さが残念。しかし、こんな企画を実現してくれたことへの感謝は持てたので、「任天堂コンプリートカタログ」を基準に考えなければ合格でしょう。
 
●13/07/04
◆鉄腕バーディー EVOLUTION 9〜11 (ゆうきまさみ・コミック)
 
 主人公を取り巻く状況が二転三転しつつ、今までの傾向から絶対にそうはならないだろうと予想した結果が実際には導かれ、遂に宇宙的規模の戦端まで開いてしまう、忙しない展開。その割に、設定の破綻・強さのインフレ・作画の崩壊は伴わず、作者は物語を自分の管理下に置いてくれており、読者としては安心感を与えられます。また、ここに来て明るみになった根底の新事実は、最初は突拍子も無さ過ぎと思いきや、あの些細な台詞が伏線かと後に膝を打ちました。
 確かに残り2冊で完結しそうな雰囲気の中、恒例のおまけページで「この人が超重要な役で再登場!」と唐突に宣言され、少々の驚きでした。だって、全体像が相当に複雑化したにも拘らず、不確定要素を更に増やす訳ですから。終幕までの所要時間が事前にわかっている、一気読みに特有の感情でしょう。
 
●13/05/25
◆鉄腕バーディー EVOLUTION 7〜8 (ゆうきまさみ・コミック)
 
 今節の特徴は裸体表現の多さ、男女問わず。扇情的でも健康的でもない、敢えて例えるなら日常的な描き方であり、読者サービスにはなっていませんけど。ただ、作者も裸の乱舞への照れを隠そうとして描いている雰囲気を受け取り、微笑ましくはありました。
 主人公は当初から追い求めていた黒幕へ超急接近し、事態が一気に収束に向かうのかと思いきや、長々と過去明かしへ──前も同様の展開は存在しましたが、今回は読者を驚かせる秘密の暴露大会みたくなっており、興は削がれず。これらの大きな設定が少年サンデー増刊版から待ち構えていたのであれば、作者はようやくここまで辿り着けたことに清々しい気持ちでは。数々の利害関係が交錯し、物語の行く先を安易に想像させない様は、シリアスな海外ドラマみたいですね。
 
●13/03/29
◆苺ましまろ 7 (ばらスィー・コミック)
 
 4年振りの帯のコピーは「これからの「かわいいは正義」の話をしよう」で、そのパロディは旬をとっくに過ぎてやいませんかとのツッコミは呑み込めませんが、原点回帰が窺えて前巻までよりは良し。でも、「かわいいは、金星!」とか「かわいいは、芸術!」とか「かわいいは、国宝!」とか、次こそはシンプルに決めて欲しいものです。それは何年後の話なのか、恐ろしくて想像したくありませんけど。
 今巻はコマ割りやタッチに新機軸が盛り沢山で、作者が『苺ましまろ』の名の下に掛けていた制限を取り払い、奇想天外なアイデアの連発で物凄いことになっちゃっており、生まれ変わったかのよう。例えるなら、書店がショッピングモールに建て替えられた程の進化で、雰囲気で何となく笑わされる感じや、マンネリを伴った少々の閉塞感を、剛速球のギャグの数々で完璧に打破してくれました。前巻と今巻の両方に存在する「気弱な茉莉が激怒するシーン」の違いが、その変化を端的に表していますね。ギャグとは関係無く、純粋に可愛さを堪能させてくれる描写も増え、『苺ましまろ』の可能性を広げる一冊でしょう。
 
●13/03/10
◆苺ましまろ 6 (ばらスィー・コミック) 
 
 「かわいいは、正義!」との名言から始まったにも拘らず、以降は「かわいいなあ、もう!」「かわいい。おかしい。」「キュ──────ト!!」「kawaii wa seigi.」と先代の名を汚す一方な帯のコピーが、今巻では「いま、笑われてます!!」となりました。作品の大切なキーワードを放棄しており、これは売り上げに響いてもおかしくない程の過ちで、自分みたく1巻を衝動買いした人は多いでしょうに、帯の影響力を軽視してやいませんか。例えば「かわいいは、才能!」とか「かわいいは、財産!」とか「かわいいは、免罪符!」とか、云々。
 今月末に7巻が発売との報を受け、6巻の感想と言うか思い出を4年越しで。何はともあれ、その一般名詞をタイピングするのすら躊躇しちゃう、汚らわしいわ怖いわの生物が冒頭からリアルな描写で登場する為、極端に虫嫌いな者にとって再読しにくいのが厳しいところ。取り分け、気弱な茉莉が後に美羽へ激怒したくらいの悪夢を見るシーンは、少なからずの読者に精神的ダメージを与えたのでは。あと、美羽からの影響で「広小のカモシカ」を自称する責任として、彼女の名誉を挽回すべくタマネギを切る時の涙対策を試してみたら、本当に効果が。こんなに便利な知識がギャグマンガから得られるなんてと、右手に包丁・左手にタマネギ・鼻孔にティッシュと言う、人様には見せられない姿でお莫迦に感激していました。
 
●13/02/20
◆鉄腕バーディー EVOLUTION 4〜6 (ゆうきまさみ・コミック)
 
 次々に新登場した団体や人物を、過剰な程に局地へと集合させ、自ずと物語に劇的な反応が見られます。しかも、説明不足や猥雑な印象は排されており、ゆうみまさみ作品にとって大切な「わかり易さ」も健在でした。元から大宇宙を舞台としているだけに、もう十二分に多い物語のパーツを更に増やすことは不安でしたけど、蒔いた種がすぐに花開けば文句は出ませんね。
 不十分な知能を持った機械に対して、妙に感情を揺さぶられて困っちゃう人は自分含めて多いのではないでしょうか。見目形が可憐な少女で、健気な性格をしていて、次第に知的レベルが高まってゆき、自壊的な行動を起こし出したら、特に危険。4〜6巻において渦中にあるガイノイドは、そんな風に卑怯なくらいに読者の弱みを刺激してくるので、今度読み返した時には心に予防線を張って凌がねば。
 
●13/02/11
◆鉄腕バーディー EVOLUTION 3 (ゆうきまさみ・コミック)
 
 本作は自分が読む速度を単行本が出る頻度が上回ってしまい、どうせなら連載完結後にチェックしようと決めました。初回限定版の『ゆうきまさみ30+1』『別冊ゆうきまさみ』の感想は書きながら、本編が2巻で止まったのは、そんな理由から。そして、昨秋に最終の13巻が発売されたのを受け、ヤングサンデー版の1〜20巻を含めて2日で一気読みしたら、己の記憶の薄まり以上に当時は見逃していた確定事項と伏線の多さを知れて、お得な気分です。
 読者心理を露骨に刺激するがごとく、1コマや1台詞の情報密度が加速度的に高まったり、前述の「お得意であろう描写」も実際に発揮されたり、水着やらスーツやらの意外性のあるビジュアルも楽しめたりで、素直に続きが気になりました。リアルタイムで読んでいれば数ヶ月待たないといけないのに、この読み方なら終幕までノンストップが可能なんて、一気読みって素晴らしい。
 
●12/11/24
◆神様はじめました (ハナエ・アニメソング)
 
 電子音に雅やかな和の雰囲気を盛り込んだ伴奏と、古風で粋な言葉遣いが共演する、儚い声色の女性ヴォーカルもの。少し生意気で、少し艶っぽく、昭和文学に描かれていそうな世界へトリップを誘われます。題名と歌詞が意外にシンクロしないことを訝しんでいたら、同名アニメの主題歌だと知って納得しつつ、2番のサビが「♪スカートは着れないし」と聞こえ、スカートは「着る」じゃなく「履く」だとツッコミを入れてたら、「♪スタートは切れないし」だと知って恥ずかしや。
 何の知識も持たずにAMラジオで一回だけ聞いて購入まで至ったのは、自分にとって10年振りの貴重体験。現状では当曲への好感が歌い手への興味には繋がっていないし、CDは1000円だけどダウンロードなら250円で済むと算盤を弾き、生まれて初めて音楽配信を利用しました。10年前は店頭でCDを購入→MDに録音でしたが、今はインターネットでデータを購入→携帯電話に転送と、発端が同じでも過程と結果は随分と変わったものです。
 
●12/04/06
◆ゲーマガ 2012年5月号 (ゲーム雑誌)
 
 名称が幾度と変わった当誌とのお付き合いは、2年前に『ぐるぐるクリーチャー』で書きましたが、今号で27年の歴史に幕を閉じると聞き、休刊記念特集を目当てに購入。自分の購読期間は1989年4月号から2001年4月13日増刊号までで、今や非購読期間と大差無いのを初めて自覚しました。当時はゲーム雑誌が並ぶ所ならどこでも売っていたのに、今回は発売日の夕暮れに大型書店やコンビニを10店以上を回っても見付からず、時は流れたものです。ページを開くと以前の面影は失われ、美少女ゲーム専門誌と見紛うようで少したじろぎましたけど、これが厳冬の出版業界を生き残れた理由なのでしょうね。
 休刊と言えば、雑誌と読者の両方にとって不幸せな別れ方になりがちなのに、『ゲーマガ』では準備が周到に成されたのか特集の内容は濃厚で、懐古の度合いが強い為に自分のような長期離脱した元読者でも取り残されません。文章の密度を上げて可能な限りの過去を詰め込んだ努力に頭が下がりますし、「ダークウィザード記事掲載ボイコット事件」やら「ドリームキャス子が大暴れ(して怒られ)」やらの不祥事を黙殺しなかったり、歴代編集長が恥を厭わずに内幕を暴露したりする豪胆さには惚れました。目玉企画の「歴代セガ家庭用ソフト満足度ランキング」は、短期間・ネット投票・1人3票の制限があった割に200以上のタイトルが並び、参加者間の以心伝心が成ったと言えそう。自分も最後の一票を捻って『星をさがして…』に割り当てたのは、他に誰も投票しなかったみたいでコメントの採用も含めて良き結果に繋がりました。最愛の『バハムート戦記』が名作認定のA表に載ったのも、ヨカッタネ。
 
●12/03/10
◆別冊ライナスくん 総集編 (船戸明里・小冊子)
 
 『アンダー ザ ローズ 7』の購入者全員プレゼントで、おまけ漫画やイラストを約50ページに渡って収録。表紙がハードカバーだわ、紙質が上々だわ、カラーページが多いわで、非売品なのは勿体無い…とは言えず、980円のコミックに500円+振込手数料を追加負担し、送付まで半年も待たされたのを考えればと、損得勘定を抜きにせねば喜べません。コミック+小冊子を1280円くらいで、最初から販売出来ないものでしょうか。
 当作のおまけ漫画は、SDキャラが本編とは無関係にボケとツッコミを繰り広げるような穴埋め的存在ではなく、本編では知れなかった裏側をコミカルに描写することで、シリアスな物語と息の詰まる時間を過ごさざるを得ない作者と読者の緊張を緩和させつつ、キャラクターへの愛情を育ませてくれるところが好きです。例えば、卑猥な単語も語彙の内なはずのライナスが娼館で「きもちわるい…」と泣くのって、彼の人となりを知る為の重要なエピソードでしょう。イラストはサイズが小さい代わりに枚数は多く、特設ウェブサイトや店頭POPまで網羅してくれた親切心に感謝。再録ばかりの中身は描き下ろしに期待した人には大怪我ものかもしれませんが、コミックで追い掛けている者には最適の企画になりました。
 
●12/02/19
◆曖・昧・Me (映画)
 
 テレビドラマ『ポケベルが鳴らなくて』で有名になる前の裕木奈江が、初主演した映画。1995年に深夜放送で何となく途中から眺めていたら感受性を痛く突き刺され、1997年に再度放送された機会に永久保存版として録画した反面、通算でも視聴は5回程でしょうか。なにせ、新人映画シナリオコンクールの入選作にも拘らず、冴えない女子高生が一度だけ売春→彼氏が出来る→売春がバレて険悪に→妊娠が発覚→自主申告によれば彼氏の子じゃない→赤ん坊を抱いて歩く姿と言う、今なら「ケータイ小説」と揶揄されそうな粗筋であり、絶対に大人向けじゃありませんから。
 今回はシネスコとノーカットの恩恵を実感すべく、録画とDVDを同時再生。スタッフロールの名前に首を傾げていた女性デュオのWinkのライブシーンや、放置気味な主要登場人物の2人の現状が描かれていたラストの存在を、初めて知れました。あと、強烈な印象が残った裕木奈江の発する一言「違うのに…」が記憶以上に破壊力満点で、彼女の演技力ってば凄い。かつて当作を、「年齢を重ねた今では味わってはいけない、あの頃だけに許された感覚」と表した奴が、更に年齢を重ねても意外に素直な気持ちで物語に溶け込み、また泣いてしまったとか。 
 
●12/01/24
◆放送禁止 劇場版 ニッポンの大家族 Saiko! The Large family (映画)
 
 もう二度と新作が見られそうにない深夜番組の劇場版2作目は、意外にも本放送2作目の続編。諸事情によりお蔵入りしたフジテレビのドキュメンタリーを関係者の許可を得て放送ではなく、外国人監督が制作の記録映画と言う体裁になりました。その変化が良い方向に働いたのか、1作目で不満だった台詞回しとカメラワークにおけるノンフィクションの装い方が、今までで最も巧みなのが嬉しいです。当シリーズについて知識が真っ白な人なら、スタッフロールが終わっても本当のドキュメンタリーだと思い込んだままでいられるかもしれません。
 視聴後の自分に、事件が起きました。明らかにメッセージで込められていそうな副題の「Saiko!」を、初見前に「Sai K.O.」=「妻 ノックアウト」と読み解き、小さくない満足感を生じつつ本作の感想やネタバレを検索に求めたら、同意見を発見出来ないのです。もう、狐につままれた気分。
 
 
 
 
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